わが街わが青春-石川さゆり水俣熱唱-

株式会社シグロ
発売日:2006-03-31

制作国:日本 1978年 43分
日本公開年:1978年
この作品は、
「同じ水俣病の仲間達のために何か大きいことをやりたい!」
一心で、自分も水俣病患者である一人の青年が石川さゆりショーを企画・実行のために奔走する様子を描いたドキュメンタリー映画である。
もともとこの作品は、日本テレビのニュース番組内の一コーナーとして放送したところ、全国から反響を呼んだことから、映像を映画公開のために再編集されたというエピソードがある。「」という商品に色がつくことを恐れた所属会社側のホリプロは、映画化される際に「歌っている映像の収録時間は○分以内」などと細かい条件をつけた。
このコンサートの実現については、当時の環境庁長官・石原慎太郎の存在を抜きには語ることはできない。石原長官は水俣を訪問した際、患者の書いた文章をみて
「この内容は本人が書いたものじゃないだろう」
と発言し、患者との面会を拒否してテニスに興じるなど、周囲の顰蹙を買ったという。しかしその一方で、常々患者のために何かやりたいと口にし、患者の一人と文通するなど交流を重ねていた。
その交流をみていた原田正純氏は石原長官に、胎児性患者がコンサートをやりたいと考えているから、芸能プロダクションのトップと話をしてくれと依頼した。石原長官はこの頼みを快諾し、彼の尽力もあって石川さゆりのコンサートが実現したのである。
このコンサートを企画した患者達は、「胎盤性患者」といわれている人たちである。妊娠中の胎児は、胎盤で守られているために病気にはかかりにくい。だが水銀は、不幸にも胎盤を通過してしまい、結果として生まれてきた新生児は、生まれながらにして重い障がいが残ったのである。自分達は曲がりなりに自力で歩けるが、寝たきりでベッドに横になり、意思の疎通もままならない仲間が大勢いる。彼らのためになにかやりたいが、20歳を過ぎても周囲からは子供扱いされている。それに不満を持った彼らは自分たちの手で何かやってみたい!という一心で、石川さゆりのコンサートを企画したのである。
彼らは障がいが残る身体にムチを打ち、宣伝やチケット販売に奔走する彼ら。
その無理がたたって、患者の一人が頭痛を訴えてしまう。
そんな中迎えた、コンサートの挨拶でのリハーサル。
彼らは、へらへら笑いながら挨拶したことで、周囲から注意されてしまう。
少なくてもこの時点では、彼らは「挨拶の重要性」を認識していなかったようだ。 
そして、ついに石川さゆりが熊本にやってくる。
彼女は、この時弱冠20歳だが、とても20歳に思えないほど立ち振る舞いが大人びていた。コンサート前日、彼女は水俣病患者の施設「明水園」で交流を持つ。水銀中毒症の後遺症のために、自ら動くこともできず、ベッドに寝たきりで意思疎通もままならない患者に対し、石川さゆりは健常者と同じ態度で接し、握手をし、会話する。芸能人だからそんなの当たり前だろ?と思う向きも多いかも知れないが、少なくても彼女の表情は、この交流は「お仕事」ではなく、心から彼らとの交流を楽しんでいたことをうかがい知ることができる。

コンサート当日。
会場には、水俣病の患者が全員招待された。
会場には、定員を大幅に超える来場者がやって来る盛況ぶり。
コンサート実現のために奔走した患者達が、スーツ・ドレスで正装して舞台上に立っている。
患者の一人が代表して舞台挨拶している最中、仲間の一人が感極まって泣き出してしまう。
「『生まれながらにして重い障がいを持つ』自分達が、『障がい者』ではなく、ちゃんとした『一人の人間』として認められた」ことが嬉しかったのかも知れないし、コンサート会場にたくさんお客さんが来たことで、これまでの苦労が脳裏をよぎったのかも知れない。
彼らの脳裏によぎった光景は、どんなものなのか聞いてみたい。
だが、その機会が来ることはあるのかな?

コンサート終了後、石川さゆりはスタッフにねぎらいの声をかける。
彼女は、彼らを「障がい者」ではなく、一人前の「人間」として認めたのだ。
「健常者」と「障がい者」が壁を乗り越えた、美しい瞬間。
この映画は、その模様を記した貴重な記録である。
あれから30年経過して、この問題を長年追いかけているフリーライター・奥田みのり氏が彼らの今を自分のブログに掲載している。
30年後の彼らがどんな生活を送っているのか・・・あえて書かない。
 
人は、どんな人間でも、一生のうち3度輝く機会があるという。
確かに彼らは、あの映画の中で輝いていた。
その事実を、私は黙って受け止めてあげたい。

このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - わが街わが青春-石川さゆり水俣熱唱-
Share on Facebook
Bookmark this on Google Bookmarks
LINEで送る
Pocket