「ゲルギエフのショスタコーヴィチ交響曲第3番『メーデー』」

20世紀ソ連を代表する作曲家ドミートリイ・ショスタコーヴィチ(1906~1975)の交響曲と協奏曲の全21曲を映像化したTV史上初の画期的シリー ズ。ヴァレリー・ゲルギエフ渾身の指揮とサンクトペテルブルク・マリインスキー劇場管弦楽団の圧倒的熱演は、まさにロシアの魂を象徴する本家本元のサウンド。今こそ、ショスタコーヴィチの生涯と音楽を多くの音楽ファンに知ってほしい。
メーデーの祝祭感や労働歌のような旋律など、前作の前衛的な雰囲気が影を潜めた第3番。ラストに合唱「メーデーの日に」が歌われ、作曲家自身「全世界の労働者が連帯する祝日の雰囲気とソ連の平和なる建設を表現する」と の意思で作曲したそうです。メリハリのあるオーケストラを牽引するゲルギエフの指揮に目が離せません。特に、荘厳な合唱に至るラストは必見。
(クラシカ・ジャパン HP)

ヴァレリー・ゲルギエフ(指揮)
サンクトペテルブルク・マリインスキー劇場管弦楽団
サンクトペテルブルク・マリインスキー劇場合唱団
(翻訳:竹下尚宏)
2013年1月8日サル・プレイエル(パリ)

ドミートリイ・ショスタコーヴィチ:交響曲第3番変ホ長調Op.20『メーデー』

1929年に作曲されたが、委嘱作だった交響曲第2番と異なり、自分の意思で書かれた作品である。交響曲第2番に続き単一楽章の形式を採用したが、内容は序奏、主部、アンダンテ、アレグロ・ラルゴ、合唱の5つに別けることも可能である。メーデーの祝祭的雰囲気を出すため、第2番で多用した前衛的な旋律を封印し、労働歌など親しみやすい旋律を引用した。作曲者は本作について
「私は全世界のプロレタリアートが連帯するこの祝日の雰囲気を伝え、ソヴィエト連邦の平和なる建設を表現せんとした。闘争や熱意、それと『継続の精神』などが、1つの赤い糸となってこの作品に表されている。」
と述べている。
社会主義を賛美する歌詞や表題のため、冷戦時代の西側各国では「プロパガンダ音楽」だとして、演奏が敬遠されることが多かった。その影響からか、現在も第2番に比べて演奏回数が少ない。
クラリネット独奏に導かれて登場する弦楽器のピチカート。木管群の音程がやや不安定に聞えるのは気のせいなのか、あるいはあえてそういうスタイルをとっているのか?金管楽器が奏でる祝祭の音。アタッカになると、作曲者の不安は一気に高まる。会場内のあちこちで「バンザーイ、バンザーイ」の大合唱。作者は「いやいや、これは違うだろう。こういうときこそ、私は異を唱えたい」とばかりに、不気味な響きを作品の中にぶち込む。ショスタコーヴィチがいくら口で「全世界のプロレタリアートの連帯をたたえたい」といったところで、その本心は隠せない。金管群が奏でる「ウラー(ロシア語での「万歳!」)という響きと、弦楽器群の急くような響き。小太鼓が奏でるリズムに導かれて、独裁者が登場する。フルートの奏でる音色は、独裁者のスピーチなのか、あるいは独裁者のスピーチに対する陰口なのか?その後のオケの弱奏に、作曲者の本音が隠されているような気がする。独裁者に逆らうと後が怖い、今は息を潜めて黙っていよう。実際に、つい最近も反対派が粛清されたというではないか。コンマスの奏でる音色、トランペット、そしてフルート。誰も彼もが、内心では独裁者のことを嫌っている。彼は間違っている、王様は裸だ!実際に、この国の生活はちっともよくならないではないか!
アレグロ・ラルゴの響きは、この国はいったいどこに向かうのか?「連帯万歳!」というのはお題目に過ぎないのではないかという、庶民の不安の声ではないか。作曲者は今の世情を、苦々しく思っている。そして思う。私が書きたい音楽は、こんな音楽ではない。芸術が権力におもねるなんてまっぴらごめんだ!と。金管群の響きは、おそらくロシア革命での紅軍の勝利をたたえているのだろうか?確かに、紅軍の活躍は素晴らしかった。だが今は?それでも庶民は今の不安を忘れるがごとく、ロシア革命をたたえる歌を歌い、ウォッカを飲み干し、歌い騒ぐ。あるものは、独裁者の前で見事な道化を演じてみせる。そうでないと、己の身が危ないからだ。
再び打楽器が打ち鳴らされる。果たして、独裁者はなにを語る?これまでの苦難か?反対派を粛清したことか?嘘まみれの苦難か?シンバルが打ち鳴らされ、コントラバスと金管群が重々しく何かを口にする。人々が口にするのはお世辞や社交辞令の類い。祝典の場で「生活はよくなりません。革命なんかない方がいいです」というバカはいない。最後に出てくる合唱で出てくる「森」はロマノフ王朝、たいまつは紅軍を指しているのだろうか。これまでいろんな苦難があったけれど、これからは一致協力して革命を推進していこう。「未来を見据え目を輝かせる」だって?おお、これは何かの悪い冗談。「100万の1歩を踏み出せ」だって?ここまでくると、もうこれはカルト宗教みたいなものですな。

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