「NHK交響楽団第1790回定期公演」

NHK交響楽団第1790回定期公演は、久々にロジャー・ノリントンを指揮台に迎えた。
ソリストのフランシスコ・ピエモンテージは、1983年生まれのイタリア系スイス人。ハノーファーでアリエ・ヴァルディに師事するほか、内田光子、アルフレッド・ブレンデル、マレイ・ペライアらの影響を受ける。2007年のエリザベート王妃国際コンクールで入賞、2009年BBCニュー・ジェネレーション・アーディストの一人に指名されたしたことをきっかけに、国際的に名前を知られるようになる。有名オーケストラと多数共演しているほか、室内楽にも積極的に取り組む。

フランシスコ・ピエモンテージ(ピアノ)
ロジャー・ノリントン(指揮)
NHK交響楽団
2014年10月18日 NHKホール

NHK交響楽団 第1790回定期公演 プログラム

レオノーレ序曲第1番 作品138(ベートーヴェン)

ベートーヴェンが書いた唯一のオペラ「フィデリオ」のために作曲された、4つの序曲の中で最初に作曲された作品である。タイトルが「レオノーレ」となっているのは、このオペラのタイトルが「レオノーレ」というタイトルだったからである。この序曲は1807年に「フィデリオ」をプラハで上演しようという計画があり、その時に作曲された。しかし計画は中止に終わり、この曲が上演されることもなかった。1827年に楽譜が出版され、翌1828年にウィーンで初演された。
序奏の部分は、もう少し、重々しい雰囲気があればいいと思った。アレグロ・コン・ブリオはどこか悲嘆にくれる曲調であるが、第二主題に入ると、曲調は一気に前向きになり、劇的に変化していく。展開部になるとホルンの勇壮な響きが印象に残るが、木管群の調子がよければな、と思うところもあった。再現部の響きはとても劇的であり、この部分はロッシーニの影響を受けていると指摘する研究者もいる。終盤は迫力を増し、冒頭のひ弱さは消えた。

ピアノ協奏曲第1番ハ長調 作品15(ベートーヴェン)

第一楽章 読響の音は上品で典雅で雰囲気を前面に出していたが、今回のN響の演奏は指揮者の意向もあってか、貴族社会を堂々と闊歩するベートーヴェン像を前面に打ち出しているという印象が強い。ティンパニの音に代表されるように、力強さと迫力は、今回の演奏の方が上である。
オケとは対照的に、ピアノの音色は澄んでいて美しい。冒頭は中途半端な印象だが、だんだんと力強さを増していく。しかしベートーヴェンが持っていただろう上品さ、男らしさ、汗臭さはあまり感じられない。イタリア系のピアニストなのに、あまり歌心を持っていない感じなのは、オケに威圧されて、本来の自分の持ち味がどこかに消えたからだろうか。。カデンツァは流麗だが、ベートーヴェンの持つ「ごつごつした感じ」はあまり感じられない。しかし後半になると大伽藍のような雰囲気を漂わせる、かなり迫力のある表現を聞かせてくれる。終結部におけるオケの響きは力強い。
第二楽章 ピアノの音はロマンティックで上品である。舞踏会で一緒に踊った男女は、夜のとばりが降りる頃を見計らって、屋敷の部屋の中での逢瀬を繰り返す。お互いにベッドの中で抱き合い、優しく愛撫する。時たま聞えるオケの力強い響きは、貴公子に貫かれた淑女の歓びの声か?グイグイとした男の力強く烈しい動きに、淑女はたまらず情熱のこもった声を上げ続ける。事の終わったあとの優しい愛撫。お互いの気持ちと考えはよくわかった。だが一緒になるためには、どこか不安がある。自分たちの未来は、一体どちらを向いているのでしょうか?終盤のピアノの連打は、不安を打ち消す貴公子の決意表明のように力強く響く。大丈夫さ、僕たちきっとうまくいくさ。耳元でそのように囁かれたら、淑女はいちころになるだろう。
第三楽章 微妙にリズムをずらして始まるピアノ。烈しいオケの加速。よし、とりあえず、この恋は成就しそうで一安心。鍵盤上をせわしなく、力強く動き回るピアノの響き。音が少しも濁らないのがすごい。だがやはり疲れが出たのか、音程が少しアヤシいところがあったのが残念。ゆったりとした木管群とせわしないピアノのやりとりは聞き所。だんだん表情が豊かになっていくピアノ。僕らの将来には障害なんかないのさ、安心してついておいでよ、ボクがきっと幸せにしてみせる。ピエモンテージの奏でるピアノには、そんな雰囲気が漂う。カデンツァの最後の表現と響きは、まるでオケにけんかを売っている感じ。負けじとオケもやり返す。オケもピアノも哀愁をおびた音色を出したと思ったら、最後はしっかり力強く締めたのが印象的。

ピアノソナタ第6番ニ長調 K.284より第三楽章(モーツァルト)※アンコール

モーツァルトがオペラ「偽の女庭師」初演のために滞在していたミュンヘンにて、バイエルン選帝侯に使える貴族の依頼で、1775年に書かれた作品。本人もこの曲を気に入っていたようで、何度も自身の手で演奏している。
今回演奏されたのは、主題と11の変奏から構成される第三楽章。彼のもつ儚げな音色は、モーツァルトに向いているのではないかと思うほど典雅で上品な演奏だった。

交響曲第7番イ長調 作品92(ベートーヴェン)

第一楽章 冒頭のクラリネットの音色が安定すればいい演奏だと思ったのに。ティンパニの音は力強いが、弦楽器の音色の魅力が今ひとつ。だが第一主題になると、とたんに音色も表現も生き生きしてくるから不思議である。指揮者は古楽器の人なのに、あの特徴的なノン・ビブラート奏法のそれではなく、現代楽器の響きである。しなやかで力強い響きだが、色気は今ひとつ。N響は弦楽器に比べて管楽器、特に木管群の音色が今ひとつだなと思う時があるのだが、それはこの演奏でも感じられた。この曲が持つ軽快なテンポ感は、この演奏では力強く感じられる。
第二楽章 ワーグナーが言うところの「不滅のアレグレット」。弦楽器主導の第一主題の響きに、古楽器らしい雰囲気が見て取れた。コントラバスの響きは重々しく、どこか物悲しい。延々と繰り広げられる弦楽器の嘆き節。チェロの奏でるひそひそ話。これはかつて敬愛していた、ナポレオンの登場ー皇帝退官ー凋落を音にしたものだろう。弦楽器に続いて、木管楽器も嘆き節を歌ったあと、このままではいけないとばかりに決意表明するオーケストラ。しかしその後の音色は、どこか吹っ切れない。おそらく音楽上の英雄は、現実世界の英雄に未練を抱いていたのだろうか?
第三楽章 全体的に力強く、荘厳な響きを漂わせる楽章。ティンパニは力強い。ひょっとして、ベートーヴェンは心の中で、英雄の復活を待ち望んでいたのでは?と思わせる楽章。打楽器の迫力は十分。ホルンの演奏は力強い。木管群も健闘しているとはいえ、外国のオケに比べたらひ弱さは否めない。「A-B-A-B-A」の2回目のBの部分の厳粛な響きは、他の指揮者では聞くことの出来ない表現だと思う。
第四楽章 アニメ「のだめカンタービレ」で使われ、一躍有名になった楽章。コントラバスと金管群が、ありったけの力を振り絞ってリズムを構築する。ノリントンは指揮をするというより、指揮台の上で踊っているといった方が正しい。19世紀前半の舞踏会は、現代のディスコ・クラブ音楽といったらわかりやすいかも知れない。コントラバスが編み出す重厚な低音に支えられ、他の弦楽器がのびのびと歌っている。展開部の木管群の音は可憐だ。こんな音色を第一楽章から出してもらえたら、と思うと残念でならない。そして一番盛り上がるフィナーレ。テンポはだんだんと速くなり、力強さも一気に増す。ずんずんと鳴り響くコントラバス。この曲は、コントラバスに注目して聴けばいいと思った。

コンサート・プラス プログラム

花のワルツ(組曲「くるみ割り人形」より(チャイコフスキー)

東京フィルハーモニー交響楽団
円光寺雅彦(指揮)
この日演奏されたのは、東京フィルハーモニー交響楽団の名曲集より、チャイコフスキーの組曲「くるみ割り人形」。
浪漫的な雰囲気が濃厚な弦楽器の音色、ハープの幻想的な音色、そして音程が安定した木管群。どれをとっても、この日のN響よりも素晴らしいと思った。おそらく文明開化の時、鹿鳴館で毎夜開催された舞踏会に鳴り響いたオケの音色も、こんな感じだったのだろうか。一口に「オーケストラ」といっても、これだけ音色も雰囲気も違うとは。

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