「マレイ・ペライア ピアノリサイタル」

マレイ・ペライアは、1947年生まれのアメリカのピアニスト。ユダヤ系だが、彼の先祖はセファルディム(スペイン・ポルトガル系)といわれる少数派である。
4歳でピアノをはじめ、17歳でニューヨークのマネス音楽大学入学、彼はそこでピアノと指揮法を学ぶ。在学中からマールボロ音楽祭に参加し、ブダペスト弦楽四重奏団カザルスルドルフ・ゼルキンらから影響を受け、ホルショフスキに師事した。1972年のリーズ国際ピアノコンクールで優勝し、国際的に演奏活動をスタートさせる。1980年代までは積極的に演奏活動を展開するが、1990年代の右手親指を負傷して以後は、休養と復帰を繰り返すことが多くなった。ケガの後遺症から解放された2008年からは、再び演奏活動を活発に展開している。
彼はドイツ古典派・ロマン派をレパートリーの中心に据えているが、バッハ、ラフマニノフ、リストらもコンサートで取り上げる。ラフマニノフ、リストの演奏は、スケールの大きな演奏であるという評価を得ているほか、自らがイギリス室内楽管弦楽団を指揮して録音したモーツァルトピアノ協奏曲全集、ハイティンク&ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団と録音したベートーヴェン協奏協奏曲全集は、名盤との評価が高い。

マレイ・ペライア(ピアノ)
2013年10月24日 サントリーホール

マレイ・ペライア リサイタル プログラム

フランス組曲第4番変ホ長調 BWV.815(J.S.バッハ)

ケーテン滞在中の1727年頃に書かれた作品集。イギリス組曲とは対照的に、演奏は比較的容易だといわれている。
1,アルマンド 先妻を亡くして再婚し、心の平穏を得た時期の作品である。ペライアの音色とバッハの美点が、高度な次元で溶け合っている。
2.クーラント 日常の何気ない幸せな生活を写し取ったものだろう。優しい妻、元気な子どもたち、良心的な友だち。領主や貴族との関係がうまくいっていたかどうかはわからないが、この曲を聴く限りではうまくいっていたのだろう。
3.サラバンド 柔らかくゆっくりしたテンポで奏でられる左手に支えられ、表情豊かに歌う右手との調和が美しい。彼が引き出す音色はとても多彩で、グラウンドピアノの持つ魅力を最大限に引き出しているといえる。
4.ガヴォットⅠ.叙情味溢れる世界から一転し、元気で賑やかな世界が展開される。華やかな舞踏会で、紳士淑女が踊る。
5.ガヴォットⅡ.「4」の版違いバージョン。「4」とはまた違った響きと旋律が楽しめる。先ほどのバージョンとは対照的に、会場内で恋のさや当てをする男女の様子を生き生きと描いている印象を受ける。今日はあの人は来ているかしら?おお、愛しのあの方は来ているようだ。よし、今日こそ口説いてベッドをともにするぞ。あの方には、どんな言葉が効果的なのだろう?
6.メヌエット この組曲で一番華麗で優雅な響き旋律と響きを持つ曲である。
7.アリア この曲が演奏されるのは珍しいのではないか?テンポ早めだが響きは華麗であり、人間くささも多分に感じられる。
8.ジーク 組曲集を締めくくるにふさわしい、力強さに満ちた曲。華やかで元気をもらえる曲である。寝る間際にこの曲を聴いたら、精神的に落ち着くのではないだろうか?憂鬱な気分も、少しは和らぐだろう。あるいは、新たな恋の予感を感じさせる。

ピアノソナタ第23番ヘ短調「熱情」 作品57 (ベートーヴェン)

ベートーヴェン中期の傑作の一つ。歌劇「フィデリオ」と並行されて作曲されたらしく、「フィデリオ」のスケッチに混ざる形でこの曲想が書き付けられていることから、1804年に作曲が開始されたと考えられている。1805年4月の出版社向けの手紙で、この曲の完成のめどが語られていることから、同年夏に完成したと思われる。楽譜は1807年2月、ウィーン美術工藝社から出版され、フランツ・フォン・ブルンスヴィック伯爵に献呈されている。「熱情」というサブタイトルは、1838年に、ハンブルクの出版商によってつけられたものである。
第一楽章 ベートーヴェンの激しい情熱がうかがい知れる楽章である。彼は貴婦人を恋愛対象にすることが多かったらしいが、当然のことながらその恋はほとんどが実ることがなかった。おまけにこの曲が書かれた頃のベートーヴェンは、聴力がほとんどない状態であった。失聴という、音楽家にとっては致命的なハンディを抱えながらも、彼は数々の名曲を発表していったわけだが、その力はどこから生み出されたのだろうか?聴力障害というハンディキャップか、それとも身の程をわきまえず、貴婦人に恋い焦がれては失恋を繰り返すという恋愛思考にあったのか?貴婦人に恋愛感情を抱いて告白しても、そのたびに失恋していたベートーヴェン。しかし、彼は自分の音楽に自信があったのだろう。終盤の響きからは、自分の音楽は世間から受け入れられるだろうという、絶対的な自負を感じられる。
第二楽章 第一楽章の華やかな響きとは一転し、ベートーヴェンが常に抱えている苦悶の表情が盛り込まれている。第一楽章では美しい高音を駆使し、華やかな表情を作っていたペライアのピアノだが、ここでは音色も奏法もがらりと変え、ひたすら彼が抱いていた苦しみを音譜に表すことに先進している。第一変奏はもろに苦悶の表情が露わになっているが、第二変奏ではテンポがゆったりとしており、どこか悟りきった表情も垣間見える。第三変奏では、過去の苦難とはきっぱりと決別して、前向きに生きていこうという意思を感じる。コーダの響きは穏やかであるが、嵐の予告のような和音の後、そのまま第三楽章に続く。
第三楽章 たまりにたまっていた感情が一気に爆発したかのような楽章。どうして私の恋は実らないのか?なぜ私の音楽は、世間から認められないのか?時代は変わっているというのに、音楽だけが旧態依然としたままでいいのかという、彼の憤りがこめられているような気がしてならない。展開部終盤では華やかな響きも聞えるが、これは彼の数少ない理解者を音に表現したのだろうか?コーダはまさにベートーヴェンの激情を示したような音楽であり、ペライアも勢いに乗って一気に引きすすむ。自分のやりたい音楽のために、多少のミスタッチなんか気にしていられないといわんばかりの演奏であり表情。おそらくペライアはこの演奏でベートーヴェンを激励するとともに、彼に対する敬意を示しているのだと思った。

即興曲第2番変ホ長調 作品90-2(シューベルト)

シューベルトの晩年である1827年頃に作曲された曲で、構成的追求よりも自由な旋律美を優先している。この曲は、第1曲とともに1827年に出版され、残る2曲は1857年に出版された。
ゆったりと堅固なテンポを構築する左手に対し、彼の右手は生き生きと華やかな音色を奏で、色彩感溢れるメルヘンの世界を構築していく。だが中間部になると嵐を表現したような音色と音楽世界が現れる。シューベルトは普段は人生を享楽的に考えているが、たまに自分の将来について不安に感じることがあったのではないだろうか?コーダではこらえにこらえてきた鬱憤を晴らすような感じの演奏。ミスタッチも目立ったが、そこで展開される音楽はこの上なく美しいものであった。先日のオズボーンの演奏になかった要素が、そこにはあった。

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