「NHK交響楽団第1789回定期公演」

モーツァルトとチャイコフスキー、この二人が書いた、おしまいから3つの交響曲を演奏するというプログラムの第3弾。
今回の演奏会では、モーツァルトの交響曲第41番、チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」が取り上げられた。

ヘルベルト・(指揮)

2014年9月17日 NHKホール

NHK交響楽団第1789回定期公演 プログラム

交響曲第41番ハ長調 K.551(

第一楽章 まるでベートーヴェンのような、勇壮な響きを持ったモーツァルトである。第二主題後半では、旋律を思い切りうたわせるのが特徴だが、この表現ではモーツァルトらしい軽やかさ、軽薄さが微塵も感じられない。この曲が作曲された1788年は、まだロココ文化の影響が色濃く残っているはずなのだが、ベートーヴェンとのハーフみたいな感じになっている。
第二楽章 優美な第一主題、どこかもの悲しさを湛える第二主題。モーツァルトが亡くなるのは、この曲が作曲された3年後だが、彼はその頃から、自分の儚い人生を予感していたのだろうか?全盛期は山のような注文を抱えていたのに、晩年は借金まみれで生活が苦しかったと伝えられているモーツァルト。この楽章展開部における弦楽器・木管楽器のやりとりを聞いていると、モーツァルトは心の中で、今は楽しいが数年後の自分は時代遅れの音楽家と思われて注文がなくなり、生活が苦しくなるのではないかと思っていたに違いない。顔で笑って、心で泣いているというのが、モーツァルトの音楽の本質だといった評論家を、私は知っている。モーツァルトに笑顔で語りかける友人・知人の中に、モーツァルトが落ちぶれたら、親身になってくれる人がどれだけいるだろうか?そんな葛藤を抱えながら、彼は作曲活動に勤しんでいたのかと思うと、ちょっと切なくなってくる。
第三楽章 勇壮で力強いメヌエットに、前楽章で露わになる作曲者の苦悩と雰囲気が変わり、場面は宮廷での舞踏会に切り替わる。貴婦人・令嬢たちは力強い騎士の手に、腕に、そして体に恋い焦がれ、思いを募らせていく。ああ神様お願いです、私の心があの方に届きますように。弦楽器の弱音は、そんな貴婦人たちの心を見透かしたかのように、甘い言葉を囁く。この胸のときめきは、一体どこに向かい、どんな結末を迎えるのでしょう?貴婦人令嬢の体と心は情熱的に燃え上がる。会場のそこここで展開される恋の駆け引き、さて、その結末やいかに?
第四楽章 壮麗なファンファーで幕を開ける。貴婦人令嬢たちの恋は成就した。ベッドの上で繰り広げられる饗宴の場。貴公子たちは淑女令嬢たちの「体」という楽器から、多彩な音色を繰り出すために、ありとあらゆる努力を惜しまない。ベッドの上で、彼女たちは甘く、切なく、時に激しい旋律を奏でる。この快楽の夢よ醒めないで!いいえ、醒めてもかまいません、最終的に願いが届かなくても、私の気持ちはあの方に届いたのです。貴公子の手により、徐々に彼女は「良家貴婦人」という仮面をかなぐり捨て、次第に「オンナ」としての本性を露わにしていく。時々聞える弦楽器のささやきは、舞踏会の場で、恋の噂話になる淑女たちのささやきのようである。コントラバスの響きは、柔らかな女体を力強く責め立てる騎士たちの動きなのか。割り切った「大人の恋」もあれば、身分違いの恋もあり、お互いの気持ちが通じ合った恋もある。男は一瞬動きを止めたかと思うと、またグイグイと女性を責め立て、快楽の淵へと誘う。最後の力強い響きは、愛情と尊敬に満ちた深い深いオーガニズムのようだ。

交響曲第6番ロ短調「悲愴」 作品74(

皆様ご存じの通り、チャイコフスキーが書いた、最後の交響曲である。1893年2月からハイペースで作曲の筆を進め、8月下旬に完成した。同年10月16日(ロシア暦。グレゴリオ暦は10月28日)に、作曲者自身の指揮によりサンクトペテルブルクで初演された。終楽章が独創的なために戸惑う聴衆も見られたそうだが、本人はこの作品の完成度に自信を持っていた。
本作品につけられた「悲愴」というタイトルは、弟がつけたという伝説があるが、これは事実ではない。本人はこの曲について、手紙で「悲愴」という意味を含んだフランス語をしたためているため、これが由来として認知されている。
チャイコフスキーは26~52歳の時に、12回の鬱病期を体験したといわれている。この作品を書いていたときは、過去を思い浮かべていたのか、鬱病を患っていたのか、鬱的な気分を作品に反映させていたのか、そのいずれかの状態になっていたといわれている。この曲のテーマについて、弟がいくつかの証言を残しているが、作曲者自身は「人生について」としか述べていない。初演演奏会の休憩中、楽屋を訪れたリムスキー=コルサコフがテーマについて尋ねたとき、当人は「今はいえないな」と答えたという。この曲の初演から9日後、彼は突然人生の終わりを迎える。彼は同性愛者だったため、そのことが世間にばれるのを怖れて自殺したという説が有力だった時期もあった。現在は周囲の忠告を聞かずに生水をのみ、それが原因でコレラに感染して死んだことが確定している。彼の作品には、この曲のあと出版された「ピアノ協奏曲第3番ホ長調 作品75」があるが、この曲は未完成に終わっており、この作品は彼が完成させた最後の作品ということになった。
第一楽章 序奏のついたソナタ形式の楽章であり、本人も認めるように不気味な雰囲気で始まる。しかしこの演奏では、ファゴットの音色がこの曲の雰囲気に合わない。第一主題は弦楽器がせわしなく動き回るが、肝心のアンサンブルはがたがた。第二主題に入っても音色の魅力が今ひとつ。クラリネットの最弱音は、作曲者のこれまでの人生を暗示するかのよう。展開部は打って変わって、オーケストラにフル・パワーを要求する難所。第一主題の暗い雰囲気は嘘のようだ。自分はこれまで満足に認められることはなかった。いつか絶対に認めさせてやるという、暗い怨念のようなものを感じさせる。この部分は、彼のオペラ「スペードの女王」に出てくる、主人公が持つ野心ぎらぎらな気持ちを表現する旋律に似ている。欲求不満をひととおりぶつけたあと、ティンパニ・ロールに導かれるトロンボーンの嘆きが登場。そしてすべてを達観したかのような、儚げなコーダで曲を閉じる。
第二楽章 複合三部形式による、混合拍子のワルツ。この楽章で作曲者は、さほど長くはなかったであろう、幸福な時代を振り返っている。チャイコフスキーの人生は苦労が多かったし、ゲイであるが故に、不当な差別を受けたこともあっただろう。それでも、彼の人生には幸福な時代があったと信じたい。彼の生きた時代は、何かと制約が多かった。貴族階級は奢侈な生活を送る一方、庶民は食うや食わずの生活を送っていた。チャイコフスキーの家庭は知識階級だったが、当時のロシア楽壇を牛耳っていたのは貴族階級であり、少なからず劣等感を持っていたはずだ。この曲の明るい曲調は、そんな庶民を励ますための、彼なりのメッセージなのだろう。
第三楽章 彼はおそらく、旧態依然としたロシア楽壇の逼塞した雰囲気を変えたいと思っていたのだろう。行進曲という構成を採用したのは、そんな彼の意気込みの表れのように思える。ピチカートの部分は、彼が本来持っていた茶目っ気がそうさせたのだろうか?後半の勇ましい管楽器、力強い打楽器の音、勢いの乗った弦楽器が奏でるメロディ。この響きはまさにロックだが、当時の聴衆の耳には、この作品の響きはどのように聞えたのだろう?
第四楽章 メチャクチャは異なメロディーがから一転、この上なく憂鬱な表情を湛える旋律。嘆き、怒り、憤り、もどかしさ、辛さ、その他負の感情に対する憤りその他もろもろのことを、彼はこの楽章にすべて詰め込んだ。悔しく、悲しく、そして情けない。自分自身「ゲイ」という趣味を世間から指弾され続けていたから、チャイコフスキーは社会的弱者の気持ちがよくわかったのだろう。私は、この国の古い因習と闘う!闘って、自分の思い描く世界を実現してみせる!だが彼の決意が、生きている間に叶うことはなかった。諦念を表現するタムタムの音や葬儀を暗示するトロンボーンの音色が、会場内に鳴り響く。すべてを悟り、諦め、モヤモヤを抱えたまま終わる、どこか釈然としない終わり方。おそらくチャイコフスキーは、己の非力さを知り、影響力のなさを目の当たりにして、内心絶望していたのだろうか?「悲愴」という言葉に、彼はどんな思いをこめていたのか、今となっては確かめる術はない。
終演後、会場は割れんばかりの拍手が鳴り響くが、正直言ってこれほど絶賛される内容かどうかは疑わしい。

コンサート・プラス プログラム

交響曲第5番変ロ長調 作品82より第三楽章(

1988年10月19日 NHKホール

1915年の自身の生誕50周年を記念し、前年秋に作曲が計画された。ところが第一次世界大戦の影響で祖国経済が困窮状態に陥る。自身も生活のために、出版社の要求に応えてピアノ曲や歌曲の作曲を優先することになる。1915年12月、本作は作曲者自身の指揮で初演され大成功する。しかしシベリウスはこの作品に満足せず、その後2度にわたり改訂を施す。現在演奏される版は、1919年に改訂・上演されるものがほとんどである。
ここで紹介する演奏は、1988年の定期公演。この楽章は、弦楽器のトレモロが強調されている。弦楽器の音色は艶やであり、管楽器の音色は色っぽい。残念ながら、金管楽器の音程、最後の和音6連打のアインザッツが不安定なところがあるなど、完成度は残念ながら高いとは言いがたいところがあるが、演奏への熱意という点では、当時の方が上なのではないかと思う。

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