「NHK音楽祭2014 3日目〜管弦楽の黄金時代〜」

「管弦楽の黄金時代」というタイトルがつけられたNHK音楽祭2014・3日目は、指揮者にズービン・メータ&イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団というコンビで、シューベルトとマーラーの作品が取り上げられた。
ズービン・メータは1936年生まれのインドの指揮者。父親のメーリ・メータも、インドを代表する指揮者である。ウィーン国立音楽大学に留学し、ハンス・スワロフスキーに師事。1958年、リヴァプールで開催された指揮者コンクールに優勝し、注目を浴びる。1959年ウィーン、ベルリン、イスラエルの各管弦楽団を指揮してデビュー。以後モントリオール管弦楽団、ロサンゼルス・フィルハーモニック、ニューヨーク・フィルハーモニックの音楽監督を歴任。今回のパートナーであるイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団(以下IPO)とは、1968年の音楽顧問就任以来密接な関係を築いている。1991年に湾岸戦争が勃発したときは、すべての日程をキャンセルしてイスラエルに飛び、連日無料演奏会を開催して現地の人たちを鼓舞した(ただし、本人はユダヤ系ではない)。親日家としても知られ、2011年3月のフィレンツェ歌劇場との来日公演が途中で中止になったときは、悔し涙を流しながら危機的状況に置ける芸術の必要性を訴えた。同年4月に単独で来日したときは、日本に向けて激励のメッセージを送っている。
IPOは1936年、ヴァイオリンの世界的巨匠であるフーベルマンが発起人になって発足したオーケストラである。前身となったのは、欧州各地において、理由で解雇されたユダヤ人音楽家が結成した「パレスチナ管弦楽団」である。それ故反ユダヤ人気質を持ち、ナチス・ドイツの文化的象徴であるワーグナー演奏は、現在も禁忌に近い状況である。バレンボイムがベルリン国立歌劇場管弦楽団とワーグナーを演奏したときも、抗議して演奏会場から退出する観客が多かったという。R.シュトラウス、ブルックナーもナチスに協力したり、ヒトラーに愛された音楽家だが、両者とも音楽顧問であるメータ演奏による録音が存在する。

(指揮)

2014年10月29日 NHKホール

NHK音楽祭2014 3日目~管弦楽の黄金時代~ プログラム

交響曲第6番ハ長調D.589(

1817年10月に作曲が開始され、1818年2月に完成した。交響曲第5番よりもシューベルトの個性が強く出ているが、ベートーヴェンやロッシーニの影響が強く残る。後者に関しては、当時シューベルトが、ロッシーニの作品を頻繁に耳にする機会が多かったからだといわれている。この作品はシューベルト逝去から一ヶ月後の1828年12月、ウィーン楽友協会主催の音楽会で初演された。作曲者は生前、交響曲第8番(「ザ・グレイト」)の演奏を希望していた。ところがこの曲が演奏至難だとしてオーケストラ側から異議が出て、演奏を拒絶されてしまう。そのかわりに提出・演奏されたのがこの作品の楽譜である。
第一楽章 ベートーベンを思わせる荘厳な序章が流れた直後に、シューベルトらしい明るく典雅なメロディーが出てくる。木管群が奏でる、小鳥のさえずりのような第一主題が愉しい。弦楽器の音色は渋く、力強い。第二主題は、どこか寂しげなクラリネットの音色と、それを打ち消すかのようなフルートの明るい音色、重々しく力強い弦楽器と、軽やかで輝かしい木管群が入り交じった響きが特徴。終結部は嵐のような激しい響きで締めくくられる。
第二楽章 宮廷では、今日も良家の子弟が集う舞踏会が開催されている。上品でしなやかな弦楽器の音色にうっとりしてしまうアンダンテ。思いを寄せる人とのダンスは、このくらいのテンポが踊りやすいかも知れない。上品で軽やかな響きの乗って、あちらこちらで繰り広げられるおなじみの光景。弦楽器の細かなパッセージは、令嬢を必死にくどく貴公子の愛のささやきであり、その後に登場する厳しい響きは、安易に誘いに乗るまいという女性側の、心理戦におけるしたたかな駆け引きに感じられる。一度は肘鉄を食らいながらも、貴公子はこのままでは男子のメンツに関わると、必死になって女を口説く。最後に出てくるフルートとクラリネットのやりとりは、カップル成立を祝福するファンファーレか、それとも愛の営みのクライマックスで出てくる歓びの声か?
第三楽章 何はともあれ、お互いの気持ちは確かめ合った。さあこれからどうしよう?彼女をどこに連れて行こう?軽やかな響きは、これから始まる恋愛という一大冒険ストーリー。中間部の重々しいテンポは、二人の門出を祝福するものか?その後に出てくる細かな響きは、世間の噂話か、それとも宮中でうごめく陰謀めいた話か?
第四楽章 二人の愛は成就したようだ。周囲の理解も得られ、二人の新生活が始まる。家具は、新居はどうしよう?細かなパッセージは、これからの生活について、二人で相談し合う様子を想像してしまう。木管群が、新郎新婦の門出祝う言葉を延々と述べる。オケの弦楽器はよく歌う。軽い、内容が浅い、という批評はいうだけ野暮。管楽器の正確なリズムの腕、弦楽器はのびのび歌う。コントラバスは、二人の不安な気持ちを表現する。だがそれを打ち破る、オーケストラの力強い響き。夫は妻の耳元に「大丈夫だよ、何とかなるだろう」と囁く。曲は、力強い響きで締めくくられる。

交響曲第5番嬰ハ短調(

全5楽章で構成される、マーラー中期を代表する交響曲。1902年に休暇を過ごしていたマイヤーニッヒで作曲され、1904年10月ケルンにて自身の指揮、ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団によって初演された。大編成の管弦楽が充実した書法で効果的に扱われ、危機映えのする音響を産み出すこと、音楽の進行が、伝統的な図式に則った「暗→明」である事から、1970年代後半からの「マーラー・ブーム」以降、彼の交響曲の中で、もっとも人気の高い作品になっている。
本作以降、交響曲第8番(「1000人の交響曲」)をのぞく交響曲では声楽が入っていないが、かわりに一連の音型を異なる楽器で受け継いで音色を変化させたり、多声的な書法が顕著になる。そしてこれらの特徴は、マーラー後期作品に顕著に表れている。また同時期に作曲された声楽作品(「亡き子をしのぶ歌」、リュッケルトの死による5つの歌曲」)と相互に共通した動機や曲調が認められる作品でもある。
第一楽章 トランペットの不吉なファンファーレに導かれる、重苦しい葬送行進曲。弦楽器の響きは、参加者の慟哭を見事に表現する。会場に参加者が歌う賛美歌が響き渡る。参列者が花を手向け、思い出話に夢中になる。いよいよ出棺、参列者の記憶に故人との思い出が走馬燈のようによみがえり、慟哭はさらに激しくなる。葬送行進曲が会場に流れる。わかっていても、参列者は故人のことを忘れられない。ティンパニによって導かれる、弦楽器群の恨み節。トロンボーンの旋律が「死んだ人間は二度と持ってこないから諦めろ」と叫んでも、悲嘆の声が止むことがない。感情の暴発を象徴する不吉なファンファーレに導かれ、曲は幕を閉じる。
第二楽章 感情の暴発は止まらない。木管群はうだうだと繰り言を述べ続け、チェロは彼らを慰めるのに必死だ。その響きは、愁いと諦念の表現がこもっている。チェロも感情を堪えようと必死なのだ。本当は泣きたい、でも人前で泣けない。彼らが感情を爆発できない理由は何か?重苦しい雰囲気に堪えきれず、かんしゃくをを起こすティンパニ、それに応戦する弦楽器。ここから弦楽器は、情念のこもった響きを出すようになる。そして回帰される第一主題、弦楽器は泣きながら故人を偲んでいる。金管楽器はこの光景に「やめてやめて、もうやめて!」と感情を露わにする。いくら泣いてもわめいても、死んだ人はもう二度と戻ってこない。弦楽器はまだ未練がましく、ああだこうだといっている。ティンパニに導かれて、いつまでも泣いていられないとばかりに、決然と立ち上がる遺族達。終盤の弦楽器のささやきは意味深だ。
第三楽章 ワルツのような序章で始まるかと思うと、不気味なレントラー風の第一主題がやってくる。金管楽器の物々しい響きをかもしだし、弦楽器が陰鬱な歌を奏でる。ソロホルンのメロディーが悲しい。トランペットの狂気じみた響きのあと、死の舞踏のようなワルツのようなメロディーの登場。これは悪魔と踊る、命を賭けたダンスだ。一時盛り上がったかと思うと、どこか覚めた響きが顔を出す。金管群の咆吼につれられ、ダンスメロディーが二度目の登場。ソロ・ホルンの信号音のあとに現れる旋律はテンポは変化が激しい。最後の不協和じみた響きの上に乗っかるダンスメロディー。ホルンの信号音で、曲は力強く締めくくられる。
第四楽章 ハープと弦楽器だけで演奏される楽章であり、映画史にその名を遺す名作「ベニスに死す」に使われて一躍有名になった楽章。この楽章のテーマは苦い恋の思い出か、それとも苦渋に満ちた結婚生活か?史実では、この曲が書かれている時に、マーラーはアルマと結婚した。おそらくこの音楽が苦々しく響くのは、当時の聴衆の無理解もあったに相違ない。
第五楽章 この演奏では、第四楽章から切れ目なく続く。曲調は、これまでとは一転して明るくなるが、全面的に明るくなったわけではない。結婚で得た、つかの間の精神的安穏。しかし一歩外に出れば、相変わらず敵は多い。自分に従わない楽団員、歌手、歌劇場関係者、評論家、そして聴衆。自作の評判もはかばかしいものではない。敵対勢力からは、人種差別的な悪口罵詈雑言も浴びせられる。指揮者としてのストレスは半端なものではなかっただろうと想像する。実際、彼はウィーン・フィルの指揮者の職を、体調不良が原因で辞職する。だがあるウィーン歌劇場の常任指揮者は続けており、彼は自分の在任中に、理想とする歌劇場づくりに邁進する。若手歌手・演出家を次々と登用し、一種の改革を図る。ところどころ出てくる明るいメロディは、彼の心情を表したものだろう。

※アンコール
イタリアの小説家ジョヴァンニ・ヴェルガの小説・戯曲に、イタリアの作曲家マスカーニが曲をつけた、一幕構成のオペラ。1890年ローマ・コスタンツィ劇場で初演され。大成功を収めた。悲劇的な結末を暗示させる美しい旋律が印象に残る名曲で、アンコールでも盛んに取り上げられる。
イスラエル・フィルは「世界一の弦楽器」と讃えられるほど弦楽器の音色が美しいことで有名だが、この曲の演奏でも、この曲が持つ魅力を最大限に引き出すとともに、美しい弦楽器の響きたっぷりと楽しませてくれたのだった。

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