「諏訪内晶子トリオ メンデルスゾーンピアノ三重奏曲」

諏訪内晶子が、1990年のチャイコフスキー国際コンクール・ヴァイオリン部門で優勝した衝撃は、今も鮮明に覚えている。翌年に開かれた凱旋コンサートでは、朗々とした節回しを聞いて「彼女は、将来の日本クラシック音楽界をしょって立つ存在になるだろう」と思っていた。あれから四半世紀。かつての美少女ヴァイオリニストは、貫禄たっぷりの熟女ソリストになっていたのでした
ピーター・ウィスペルウェイは1962年オランダ・ハールレム出身のチェリスト。オランダでディッキー・ブッケ、アンナー・ビルスマに、アメリカでポール・カッツ、ウィリアム・ブリースに師事。レパートリーはバッハからシュニトケ、さらには自分のために書かれた現代作品を初演するなど幅広い。ビルスマに師事したこともあり、古楽器の演奏にも精通している。
ニューヨーク・タイムズ紙から「非凡なる芸術性、円熟、知性」と賞賛されるピアニスト江口玲は東京生まれ、東京芸大附属高校から東京芸大を卒業、ジュリアード音楽院に留学して大学院修士課程及びプロフェッショナルスタディーを修了。1992年に開催したニューヨークでのデビュー・リサイタルが大成功になったのをきっかけに、世界各地で演奏活動を展開。現在は母校のピアノ科で教鞭を執りながら、日米両国で活発に演奏活動を行っている。

(ヴァイオリン)
(チェロ)
(ピアノ)
2013年2月16日 横浜みなとみらいホール 大ホール

諏訪内晶子トリオ演奏会プログラム

作品8より第一・第四楽章(

ブラームスがはじめて書いたピアノ三重奏曲である。多楽章の大規模な作品において、長調ではじまり短調で終わるという革新的な書法がとられた作品。1854年に作曲されたが、1891年に主題を書き換え、第三楽章以外の短縮を行った改訂版の楽譜が発行されている。彼は初期の歌曲などをのぞき、改訂版を発行した曲の初版は破棄していた。そのため初版・改訂版の双方が残る当曲は極めて異例であるといえる。
初版は1855年ニューヨークにおいて、ウィリアム・メイソンのピアノ、セオドア・トマスのヴァイオリン、カール・バーグマンのチェロで初演された。
改訂版は1890年ブダペストにおいて、作曲者自身のピアノ、イェネー・フバイのヴァイオリン、ダーヴィッド・ホッパーのチェロで初演された。
第一楽章 チェロの朗々とした歌が心地よく、ヴァイオリンの音色も情熱的である。ピアノもクリアーな響きで、情熱的な歌を奏でる弦楽器を支える。展開部の弦楽器の音色は、鬱積した感情を晴らすため、誰もいない野っ原で大声で叫んだかのような印象だ。その感情はいったい何だったのか?嬉しくて叫んだのか、悲しくて絶叫したのか?それともただ単に叫びたかっただけなのか?個人的にこの演奏を聴く限りでは、おそらくここに出てくる人間の願いは成就したようだ。繰り返しで再現される第二主題における弦楽器の表現は、この恋はうまくいくのだろうかという、当人の悩みを音楽にしたのではと思える。ヴァイオリンが高ぶる感情を歌い上げ、チェロが恋の苦しみ悩みを吐露する。コーダに入るヴァイオリンの音色・節回しはとても情熱的だが、もう少し繊細に表現できるのではないかと思っている。終結部のヴァイオリンとチェロのやりとりは、しみじみとした味わいを感じさせる。
第四楽章 ヴァイオリンとチェロの間で交わされる、情熱的なやりとり。どうやら、二人の間はうまくいっているとは言いがたいようだ。曲の進行とともに、二人の間にはだんだんと波風が立ってくる様子が窺える。離れる心を、必死になって止めようとするピアノ。罵りあうとまではいかなくても、弦楽器二人のやりとりはかなり激烈だ。どちらかが何か言えば、もう片っ方が負けじと言い返す。どうやらこれは夫婦喧嘩なのだろうか?もう話し合うのもムダだと悟りきったのか、どうやら別れる決心をしたようだ。

ピアノ三重奏曲 第1番ニ短調 作品49(

1839年に作曲され、初演は同年秋に自身のピアノ、チェロとヴァイオリンは彼の友人によって行われた。楽譜は1840年に出版されたが、ご友人のヴァイオリニストであるフェルディナンド・ダヴィッド(彼はヴァイオリンも担当した)の助言を受けて、第四楽章を中心に修正した改訂版を後に発行した。現在演奏される機会が多いのは、その改訂版である。メンデルスゾーンはピアノの達人として知られており、ピアノパートには高度な技巧が要求される。
この曲を聞いたシューマンは「ベートーヴェン以来、最も偉大なピアノ三重奏曲だ」と評し、メンデルスゾーンを「19世紀のモーツアルト、もっとも輝かしい音楽家だ」とたたえた。
第一楽章 逞しいチェロ、華やかなヴァイオリン、情熱的でロマン漂う音色のピアノ。この曲もまた、情熱的な恋を扱った作品だといえるのではないか?だがそこはお坊ちゃん育ちのメンデルスゾーン、旋律のそこかしこに育ちの良さが垣間見える。弦楽器の二人が感情豊かに演奏しているので、この曲の本質的な部分をつい忘れそうになる。これは「格差間の恋愛」ではなく、良家の子息令嬢との間で交わされる愛の歌である。たぶん、二人は相思相愛の仲だ。だが相互の実家が何らかの対立的な関係にあり、この恋愛はうまくいっていない。互いに顔を合わせることもままならず、部屋の中で煩悶する二人。会えないのならせめて踏みだけと思い、お互いの気持ちを確かめるべく、彼らは紙とペンに思いを託す。交わされるやりとり、やがて二人は決意する。このままの状態ではらちがあかない、いっそのこと駆け落ちして、お互いのことをわかってもらおうと。さあこの二人の恋は、これからどんな顛末を辿るのか?
第二楽章 誰かに見られないように、男は女のいる部屋のそばに静かにたたずむ。彼女の部屋からはまばゆいまでの光が漏れ、彼女の機知に富んだ笑い声が聞える。手紙では、彼女は自分のことを好きだといってくれた。だが本当にそれは正しいのか、男の心の中には疑心暗鬼が渦巻いている。できることなら、彼女の部屋に忍び込みたい。だが屋敷の内外に人の気配がするから、そう簡単に中には入れない。弦楽器の演奏からは、彼女の顔を一目見たいという、悲痛な表情が伝わってくる。お願いだ、私の真心を彼女の一族にわかってもらうためには、いったいどうすればいいのでしょう?私の心には二心はありません、一途に彼女を思う私の気持ちを理解してください。さあ、男の気持ちは届くのだろうか?
第三楽章 はしゃぐピアノの音色、それにつられて弦楽器二人も歓喜の声を上げる。どうやら二人は、交際の許可が下りたようだ。だがとき愁いを含んだ旋律が出てくるように、二人の将来は明るいとはいえないようだ。とはいえ、二人はるんるん気分でデートを楽しむ。ラブラブである。お互いに手を取り合い、ショッピングを楽しむ様子が目に浮かぶ。そして近くのカフェでお茶を飲みながら、二人は将来のことを話し合うのだった。
第四楽章 階調は短調で、冒頭の旋律は確かに暗い。解消しなければならないこと、解決しなければならないことは多い。二人でそのことを真剣に話し合っていたら、だんだん旋律が暗くなってくる。やっぱり、二人の交際は認められないということなのだろうか?案の定、女の家からは男に別れて欲しいと言われる。必死になって抗弁する男だが、彼の願いが受け入れられることはない。どうしようか?男の嘆きは止まらない。嘆きながら街を歩いていると、通りを猛烈な勢いで女性が彼を追いかけ、背後から抱きつく。そして「あなたが好き」と告げるのだった。

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