「モザイク四重奏団演奏会」

モザイク弦楽四重奏団は1985年、古楽器オーケストラであるウィーン・コンチェントゥス・ムジクス(以下CMW)のメンバーによって結成された弦楽四重奏団である。CMWでの演奏経験で培われた経験を弦楽四重奏団の分野で試みる古楽器の特長を生かした透明感溢れる音色を駆使して作品本来の魅力を引き出すことで、古楽器四重奏団の最高峰に位置している。彼らの個性的かつ高度な演奏は、その時代の演奏様式の信憑性を追い求めるだけではなく、ヨーロッパにおける弦楽四重奏の演奏様式につながる、伝統的な視点に基づいているのが特色だそうだ。彼らのレパートリーは、この演奏会で演奏されたベートーヴェン、シューベルトの他ハイドン、モーツァルト、ボッケリーニ、メンデルスゾーンなどである。


エーリヒ・へーバルト(第一ヴァイオリン)
アンドレア・ビショッフ(第二ヴァイオリン)
アニタ・ミッテラー(ヴィオラ)
クリストフ・コワン(チェロ)
2014年10月24日 フィリアホール

モザイク弦楽四重奏団 演奏会プログラム

弦楽四重奏曲第10番変ホ長調 D.87 作品125−1(

1813年11月に作曲されたことがわかっているが、どのような敬意で作曲されたかどうかは現在も不明である。楽譜はシューベルトの死後に出版された。
第一楽章 シューベルトがまだ10代(16歳)の時に作曲された作品というのが信じられない。第一主題はハイドンやモーツァルトの影響を感じさせる、典雅な響きと旋律を持つ楽曲である。彼らの演奏もどこか上品であり、楽想をうまく表現していると思う。展開部に入ると、序盤はどこか儚げであり、すぐに力強い響きが出てくるが汚く聞える。力演しているとはいえるが、弦楽器や楽想の素晴らしさを十分に伝えているとは言いがたい演奏だ。SQがもっと澄んだ響きを出していたら、印象も変わっていたかも知れない。
第二楽章 冒頭からアンサンブルが乱れて聞え、曲の魅力がまるで伝わってこない演奏である。曲の素晴らしさを伝えたいという情熱が裏目に出てしまった演奏。メヌエットのような楽章だが、優雅さのかけらもない。
第三楽章 しみじみとした、趣のある楽想を持つ曲のはずなのだが、演奏者の主義主張がもろにでてしまい、純粋に演奏を楽しめない雰囲気になってしまったのが残念。とはいえ、中間部の演奏はアクが強いながらも、作曲者の情熱というのを十分に感じられるし、再現部A主題は、夢に破れた青年が、寒空の元をとぼとぼと歩く風情が感じられる。
第四楽章 のびのびと、一件好き勝手に振る舞いながらも実はアンサンブルを引っ張る第一ヴァイオリンの音色が印象的。展開部ではヴィオラが渋い音色を聞かせてくれる。再現部第二主題のヴァイオリンの演奏は、ウィンナ・ワルツを彷彿とさせる響き。だが気の利いた表現は部分的・散発的で続かない憾みが残った。

弦楽四重奏曲第2番ト長調 作品18-2(

1798~1800年にかけて作曲された「初期弦楽四重奏曲」の一つである。1801年に楽譜が出版されたが、ベートーヴェンは楽譜が出版されるまで、念入りに校訂作業をしていたそうだ。「作品18」の6曲は、ベートーヴェンが作曲活動をはじめた頃のパトロンであるロプコヴィッツ伯爵に献呈された。彼の作曲した弦楽四重奏曲は全部で16曲あるが、それらはピアノ・ソナタ(全32曲)とは異なり前期・中期・後期に集中されている。彼の弦楽四重奏曲は、人間関係など人生の微妙な問題が盛り込まれていると言われるので、これらの背景を想像しながら聞くのも一興である。

第一楽章 先ほどのシューベルト以上に、ハイドンやモーツァルトの影響を感じさせる曲である。第一主題・第二主題ともに、第一ヴァイオリンの音色からは、作曲者が街中で、音楽ならびに芸術について議論をする光景が目に浮かぶ。展開部の後半では、議論の結果彼の思うような結論が得られず、落胆する光景が目に浮かぶ。フランス革命の残り火は未だ残っており、世情も混沌としている時代だった。それでもベートーヴェンは、未来を信じて前を向く姿勢を見せている。響きは汚いが、ベートーヴェンの情熱は辛うじて伝わってくる。
第二楽章 楽聖ベートーヴェンは、夜更けに一人で物思いにふけっている。旋律のテンポや強弱について、考えれば考えるほど苦悩が深まってくる。これからの音楽にふさわしい響きは、いったいどんなものなのだろう?とひとり沈思黙考する楽聖。中間部に入ると、演奏は俄然熱気を帯びてくる。次々とアイディアが浮かび、持っている楽想をスケッチとして書き留めるベートーヴェン。だが実際に音にしてみると、頭に浮かんでいたものとはどこかが違う。自分の頭に浮かんだ楽想はいったい何だったのか?こんなはずじゃなかった。あるいは知人にきかせてみたが、評価が芳しくなかったのだろうか。考えよう、考えよう。もっともっと考えよう。
第三楽章 前楽章と雰囲気ががらりと変わり、舞台が変わったということがわかる。場所はどこかの社交場か、あるいは舞踏会か。ベートーヴェンはおそらく、会場に来ている人に片っ端から議論をふっかけている。お題は哲学か、芸術か、音楽か、はたまた政治情勢か?ベートーヴェン型任と世情について議論していたのかはわからない。だが第三交響曲をナポレオンに献呈しようとしていたから、政治についてはある程度関心が高かったのだろう。
第四楽章 どうやらベートーヴェンは、ここ最近の議論で自信を得たようだ。進むべき方向も決まったようだ。リズムは弾み、旋律も明るく力強さも増す。後はスポンサーをどうやって説き伏せるか。今度の作品を発表したくてうずうずしている。演奏会も開きたい。そのためには、スポンサーが必要だ。支援者ももっと増やさなくてはいけない。やることは沢山ある。うじうじ悩んではいられない、そんなことを感じさせる演奏である。演奏の高揚感も、曲の進行とともに高まっていく。フィナーレも見事に決まった。

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