「N響ミュージックトゥモロー2014」

コンサート概要・演奏者紹介

イエルーン・ベルワルツ(トランペット)
高関 健(指揮)
NHK交響楽団
2014年6月27日 東京オペラシティコンサートホール

NHK交響楽団は毎年、現代作曲家の作品を紹介するコンサート「N響ミュージックトゥモロー」を開催している。2014年は権大敦彦、細川俊夫、猿谷紀郎の3人の作品が取り上げられた。
この日の指揮台に経った高関健は桐朋学園大学卒業。大学では小澤征爾、秋山和慶らに師事。大学卒業後はカラヤンのアシスタントを務めるかたわら、タンブルウッド音楽祭で研鑽を積む。1983年にヨーロッパ・デビュー。1984年、ハンス・スワロフスキー国際指揮者コンクールで優勝し、一躍時の人になる。日本デビューは1985年、日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会で、恩師である渡邉暁雄の推薦を受けてのものだった。その後は国内外のオーケストラで実績を積み、現在は京都市交響楽団首席客演指揮者、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団常任指揮者の任にある。また2006年から、母校である桐朋学園大学の准教授を務めている。
この日のソリストであるイエルーン・ベルワルツは、1975年生まれのベルギーのトランペット奏者。カールスルーエ音楽大学で学び、1991年モーリス・アンドレ国際コンクールに優勝するなど、多数の受賞歴を持つ。1999年より北ドイツ放送交響楽団の首席トランペット奏者に就任。ソリストとしても活発に演奏活動を展開するかたわら、2008年よりハノーファー音楽大学の教授として、後進の指導にあたっている。レパートリーはバロックから現代音楽、ジャズなど幅広い。ゲント王立音楽院でジャズ・ボーカルを学んでいることから、異分野との協働演奏経験も豊富である。

N響ミュージックトゥモロー2014 プログラム

Utopia-どこにもない場所ー(権代敦彦)

権代敦彦は1965年生まれ、桐朋学園大学音楽学部、大学院を修了。大学院修了後はドイツ・フランス・イタリアで、当時勃興しつつあったコンピュータ音楽を研究。1987年に日本音楽コンクール作曲部門で1位を受賞するなど入賞・受賞経験多数。カトリック教徒だが、作品のタイトルはスピリチュアリズムに基づいたものが多い。
今回演奏される作品は、N響が彼に委嘱した作品で、この日が世界初演になる。
Utopiaは、作者がこだわりを持つというミ♭(「フラット」)・レ・ドのリズムを基調に組み立てられている曲である。このパターンを何回も繰り返した後、弦楽アンサンブルによる、大きなフレーズとして現れる。弦楽器は弱音で恐怖感をあおり立て、フルートがその上をせわしなく走り回る。打楽器の奏でるリズムは、無調音楽のようだ。弦楽器は透明な音色だが、時間がたつにつれて金属音のような響きを奏でるようになる。この楽曲での打楽器は、リズムを奏でたり強調するためではなく、ひたすら己の存在感を誇示するかのように、アンサンブルに参加する。
17分過ぎから、弦楽器がメロディーらしきものを奏でると思ったら、すぐにまたミ♭・レ・ドのリズムが出てくる。打楽器のメロディーは、ゴジラの音楽、あるいはサスペンス映画のような雰囲気。1960年代の映画に出てくる音楽へのオマージュなのだろうか?中盤過ぎから、弦楽器群はミ♭.レ・ドのリズムを基調にアンサンブルを組み立て、他の楽器がその周りで、これでもかこれでもかといわんばかりに恐怖を煽っていく。音色も響きも純粋無垢で透明、だからこそ恐怖は倍増するのだ。23分過ぎに出てくる鉄琴の響きは、不安に駆られる人々の心臓の鼓動か?弱音器をつけたトランペットは「お母さん怖いよ~」と泣き叫ぶ子どものようだ。怖い、誰か助けて、怖い、怖い!やがて、弦楽器がせわしなく動き回る。人々のあてどのないココロは、ユートピアを求めてうごめき、ざわめき、そして絶叫する。だが、それでも彼らに救いの手がさしのべられることはない。
やがて寄る辺なき人々の魂は、続々と地獄に墜ちていく。彼らは逃げてきた。突きつけられた現実から。彼らは逃げてきた。認めたくない事実から。彼らは逃げてきた。「責任」という名の事実から目を背けるために。彼らは逃げてきた。「決断する」という選択から。逃げて、逃げて、逃げて、ひたすら逃げて、そして彼らは一つの結論にたどり着いた。誰も、自分を助けてくれないという現実に。当たり前だ。彼らは自分たちの言い分にこだわるあまり、やらなければならないことからひたすら逃げてきたのだから。逃げ回ってきたのだから。いつか、誰かが解決してくれる。いつか、奇跡が起こる。いつか、いつか、いつか、いつか……
最後の打楽器の連打は、ありとあらゆる責任と義務から逃げ回り、快楽と利益の追求だけを求めた、日本人に対する「最後の審判」を告げる鐘の音ではないか?私にはそう感じたのだった。

トランペット協奏曲「霧の中で」(細川俊夫

細川俊夫は1955年生まれ(もちろん、同名の俳優とは別人)。国立音楽大学に入学するも、大学の教育方針に疑問を感じて1年で中退、10年間のドイツ留学生活を送る。ベルリン芸術大学で尹伊桑(ユン・イサン)に師事。その後フライブルク音楽大学でファーニホウ、フーバーに学ぶ。今日の音楽国際作曲賞で3位入賞を果たしたのをきっかけに、武満徹との交流が生まれる。現代ヨーロッパの前衛音楽を日本に紹介することに貢献した作曲家の一人。現在はドイツと日本を拠点に作曲活動をしながら、東京音楽大学、エリザベト音楽大学で後進の指導に当たっている。
この曲は、サントリーホール国際作曲委嘱シリーズ&北ドイツ放送交響楽団の協働委嘱作品として、2013年に完成した。この作品は、2013年の尾高賞受賞作品である。
風が吹いているかのような、弦楽器の弱音の響きでこの曲は始まる。その中を、弱音器をつけたトランペットが意味深なメロディーを奏でていく。まるでそれは、トランペットが尺八のフレーズをまねたらこんな響きになるのだろうか?この響きはとても渋い。一見すると、それはお経を唱えているかのように聞こえる。トランペットが独特の世界を形作っていく中で、オーケストラはひたすらに聴衆の恐怖感をあおり立てることに専心する。
弦楽器群が最弱音の音で神秘の世界を構築する中、マウスピースを外したトランペットが何かを唱え、それにフルートが呼応するという形で第二部が始まる。テューバがおどろおどろしい響きを発したかと思うと、トランペットがそれに応えて言い返す。弦楽器が腹の底から滲み出るホラーな世界を醸し出すと、トランペットも負けじと言い返す。こうなると、タイトルにつけられた「霧」という言葉は、何かに対する嫌みなのか?と突っ込みたくなってしまう。
鐘の音に導かれ、弦楽器とバス・フルートが不気味な世界を醸しだし、ここから第三部?再びトランペットはマウスピースを外し、何か悟りに満ちた音色を出してくる。最後に弱音器をつけたトランペットが何事か絶叫する。ソロ・チェロがその問いかけに答え、トランペットがそれに再返答。オケもトランペットも、ありったけの集中力を発揮して最弱音で音色を奏で、やがて消えるように曲を閉じるのである。

交響詩 浄闇の祈り2673(猿谷紀郎)

猿谷紀郎は1960年生まれ。慶大卒業後、ジュリアード音楽院作曲家に留学、ヘンツェ、ナッセンらに師事。1988年クーセヴィツキ音楽財団・フェロウシップ賞を受賞したほか、国内外の受賞経験多数。1995年、2006年、2014年の尾高賞受賞者。2000年から、大阪教育大学音楽講座准教授を務めている。
この作品は神社本庁の委嘱で、第62回伊勢神宮式年遷宮の奉祝曲として作曲された作品である。タイトルにある「浄闇」 とは神嘗祭の夜に行われる神事のことで、作曲者は実際にこの行事に参加したことで、創作のヒントを得たのだそうだ。
第一楽章は全体的に淡々としており、神秘的な雰囲気が溢れている。だがあまりにも音楽が静寂で起伏がなく「退屈すぎて、どこがいいのかわからない」という感想を持つ人もいるかも知れない。作曲者はこの曲を書くにあたり
「神事を意識しての作曲に悩んでいたが、新嘗祭に参加してその答えを掴んだ」
と答えているが、第一楽章に流れる雰囲気は、おそらく神道の行事を意識したものだと思われる。
第二楽章 まるでドビュッシーの響きに影響されたようなメロディーと響き。終盤一気に盛り上がったと思えば、最後はファランクスのようなフルートの音色で終わる。
第三楽章 前楽章と大きく雰囲気が異なり、弦楽器群が奏でるドビュッシー風の旋律の中に、和太鼓のリズムと横笛のようなメロディーが混ざり込んでくる、小太鼓のリズムは和太鼓のような響き。東洋趣味の混ざった楽章で、フルートの音色はあきらかに横笛の影響を受けている。日本の伝統音楽を、西洋風にやったらこんな響きになりましたという感じか。最後の打楽器の響きは、まるで盆踊りのようである。
第四楽章 ヴァイオリンとチェロのソロが効果的に使われた楽章。弦楽器群の響きは、まるで風で揺れる木々のざわめきのような感じ。木管・金管群は絶えず不協和音を奏で、神々の神々しさとともに、どこか不気味さを漂わせる音楽である。最後は「ヒュー」という音がどこからか聞こえて終わる。
第五楽章 大音響で始まり、それが波を轢いて透明な音色が会場内に漂ったかと思ったら、打楽器群に導かれた大音響の響きが波のように押し寄せては引いていき、押し寄せては引いていく。ここでも金管群・木管群は荒々しい不協和音を奏でる。クラシック音楽でよく出てくるフレーズを、現代音楽風にアレンジしたら、こんな響きになるのだろうか。終盤に出てくるチェロの響きは、神々のすばらしさを称えるというより、むしろ人々が隠し持っている不安な気持ちを表出したものであると思った。ただ、最後に出てくる旋律と響きをどう表現したらいいのだろう?それを説明するには、私の貧相な語彙と表現力ではそれは不可能である。

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