「NHK交響楽団第1784回定期演奏会」

NHK交響楽団第1784回定期演奏会のソリストであるパトリツィア・コパチンスカヤ〜KAJIMOTOより〜

NHK交響楽団第1784回定期演奏会
交響詩「ステンカ・ラージン」作品13(
ヴァイオリン協奏曲第2番ト短調 作品63(
クラン()※アンコール
バレエ音楽「くるみ割り人形」作品71より第2幕(
お菓子の国と魔法の城
スペインの踊り
アラビアの踊り
中国の踊り
ロシアの踊り
葦笛の踊り
ジゴーニュ小母さんとピエロ
花のワルツ
パ・ド・ドゥ
ヴァリアシオンⅠ
ヴァリアシオンⅡ
ワルツ

(ヴァイオリン)
(指揮)

2014年6月7日 NHKホール

コンサート・プラス
トランペットのカプリッチョ(
タンゴ・エチュード第3番(

パトリツィア・コパチンスカヤ(ヴァイオリン)
2012年11月13日 トッパンホール

NHK交響楽団は、アシュケナージを第1784回定期演奏会の指揮台に迎え、グラズノフ・プロコフィエフ・チャイコフスキーという「オール・ロシア・プログラム」を組んだ。
アシュケナージは1937年生まれのフィンランドの指揮者。もともとは旧ソ連出身なのだが、フィランド人の女性ピアニストと結婚した。彼女の影響を受けたのか、それとも旧ソ連での演奏活動を煩わしく思ったのか、1963年に亡命同然の形でイギリスに移住、1968年にフィンランドに居を移した。モスクワ音楽院出身で、1955年のショパン国際ピアノコンクール2位、1956年のエリザベート王妃国際音楽コンクールピアノ部門優勝など輝かしい実績を持ち、音楽家としての将来を期待していた旧ソ連指導部はこのことに激怒、彼の国籍を剥奪した。そのため、1972年にフィンランド国籍を得るまで、彼は無国籍状態を強いられた。
ショパン、ラフマニノフ、ベートーヴェンなど広いレパートリーを誇るが、その演奏スタイルは端正で中庸を得た解釈と洗練された音色を武器に、誰にでも受け入れられやすい音楽の世界を持っている。だが一歩間違えれば、そのスタイルは「個性がない」といわれかねない危険性をはらむ。実際日本の一部音楽評論家(特に宇野功芳とそのシンパ達)は、彼の演奏を「それとなく表情をつけるだけで個性がない」とクソミソに貶している。
1980年代から指揮者としても活動を開始し、チャイコフスキー、ラフマニノフ、プロコフィエフなどのロシアの作曲家を中核に、ドイツ系ではR.シュトラウス、ベートーヴェン、シベリウスの作品をレパートリーとしている。また自身の弾き振りで、モーツァルト、ベートーヴェンのピアノ協奏曲を全曲録音している。
日本との関わりが親密な指揮者の一人であり、1965年の初来日以来、頻繁に来日してコンサートを開催している。2000年10月の定期演奏会で、N響の定期演奏会ではじめてタクトを振るった。2004~2007年の4シーズンに渡りN響の音楽監督を務め、退任後はN響の警官指揮者にに任じられている。

NHK交響楽団第1784回定期演奏会 プログラム

交響詩「ステンカ・ラージン」作品13

本作品では、ステンカ・ラージン一味の乱暴狼藉と戦い、彼に囚われたペルシアの姫が見た夢を主題にとられた作品である。1885年グラズノフが20歳の時に作曲され、唯一「交響詩」と名付けられた作品である。
初演は1885年11月、サンクトペテルブルクで行われ、外国初演は1889年、パリ万国博覧会において、作曲者自身の指揮で行われた。
曲は低い雷のような響きで始まり、トロンボーンの響きは力強い。オーボエの響きは、この曲の悲劇的な結末を暗示するかのようであり、弦楽器の動きは、主人公の不安の気持ちを増幅させる。13分過ぎのクラリネットの響きはとても優雅であり、弦楽器も艶やかに鳴っている。哀愁をおびたクラリネット、フルートの音色もいい。14:30過ぎの弦楽器の音色は、スラブ民族の臭いを会場内に漂わせてくれる。。15:43からの表現は、ボルガ川の動きを表現したものらしいが、この頃のボルガ川の波って、これだけ激しい動きをしていたのか。そして、威勢のいいトゥッティの部分は、もうちょっと迫力が欲しいところ。こういう部分を表現するには、アシュケナージの性格は優しすぎる気がするのは私だけかしらん。ロシア軍との最終決戦で必死で抵抗する反乱軍を、金管群の音色で、騎馬隊の戦闘を表現している。だが本来が持つ男臭さ田舎臭さは微塵も感じられず、都会的で軽い。この曲は「命をかけた闘い」が主題になっているはずだが、戦場に漂う血生臭い空気、四方八方から聞えてくる阿鼻叫喚は聞こえず、悲壮感もない明るくモダンなロシア音楽になってしまっているのはいだだけない。最終盤で「エイコーラ、エイコーラ」というおなじみのロシア民謡「ボルガの舟歌」の威勢のいいサビが流れ、一気に加速して曲を閉じる。

ヴァイオリン協奏曲第2番ト短調 作品63

プロコフィエフがフランス人のヴァイオリニストであるロベール・ソエタンの演奏旅行に伴奏者として同行した際、ソエタンに新作を依頼されたのがきっかけで書かれた作品である。初期の大胆不敵な作品に比べて伝統よりになっており、本作では彼独特の、乾いた表現は控えられているのが特徴である。1935年に完成し、同年12月にマドリードにて、依嘱者であるソエタンの独奏、エンリケ・アルボス指揮マドリード交響楽団によって初演された。
ソリストを務めるコバチンスカヤは、1977年モルドヴァ生まれの女流ヴァイオリニスト。ウィーン国立音楽大学とベルン音楽院で、ヴァイオリンと作曲を学ぶ。2000年、シェリング国際コンクール優勝者。2001年、クレディ・スイス・グループ・ヤング・アーティスト賞を受賞。その後は、世界中の音楽祭やオーケストラとの共演を重ねている。この演奏では、譜面台をおいて演奏する形式をとっていたけど、いつもこういうスタイルをとっているのだろうか?
第一楽章序盤の部分は、やや音程に不安定に聞えた。第一楽章は冒頭に限らず、音程が不安定な部分が多く、あまり好きなタイプの音色ではないと感じたのだが、曲の進行とともに本来の調子を取り戻したのか、細かいパッセージを余裕を持って弾くようになり、情熱的な旋律が出てくる部分になると、何かが乗り移ったような音色を聴かせてくれる。
第二楽章は弱音の、か細伊弱音を繰り出すソロではじまるが、第一楽章終盤とは同じ楽器とは思えないほどである。オーケストラも上品で柔らかい音でそれに応える。緩徐楽章で、これだけドラマティックな表現はなかなか聴かせてくれないぞ。フルートとソロのやりとり。ウィヴラートをつけた旋律、よく鳴る楽器。まさに興に乗るまま、多少の音程の狂いがなんなのさ、私は自分のやりたい演奏を貫き通すのよという心意気を感じる。自分の世界に没入したかと思えば、時たま我に返って指揮者の表情を窺う時の表情がかわいい。
第三楽章になると、ロシア・モダニズムの雰囲気が溢れるワルツの旋律が出てくる。ソリストは一瞬だけ自分の世界に浸り、本能・欲望を一気に爆発させたかのような演奏を繰り広げる。オケも指揮者の制御も関係なく、とにかく自分のやりたい音楽・表現を本能のまま・感じるままの自由奔放な演奏。ひょっとして、この演奏はソリストの過去の恋愛関係を、そのまま音楽に表現したのではと想像してしまう。モダンな退廃に満ちた、エロスのにおいがぷんぷん漂うプロコフィエフを、私は聴いたことがない。研ぎ澄まされた集中力で、グイグイと指揮者とオケを引っ張っていく。まさにこの曲の主人公は彼女。終盤の迫力は、明らかに指揮者もオケも圧倒していた。聴衆のブラボーも当然か。
アンコールで弾いた曲は、ホルヘ・サンチェス・クランの「クラン」という、一風変わった曲。ヴァイオリンを弾きながら、ソリストも絶叫するという何とも珍妙な曲だった。聴衆はあっけに囚われ、そしておもしろがる。

バレエ音楽「くるみ割り人形」作品71より第2幕

1890年に成功したバレエ曲「眠れる森の美女」の次作として、この時代マリインスキー劇場の支配人を務めていたイワン・フセヴォロスキーからの依頼を植えて作曲されたバレエ曲。原作はドイツの作家E.T.Aホフマンの童話を元に、フランスの作家アレクサンドル・デュマ・ペールが小説化したもの。台本をマリウス・プティパが執筆し、「眠れる森の美女」同様、振付もプティパが担当するはずだったが、リハーサル直前に病に倒れてしまった。振付は後輩のレフ・イワーノフが担当して完成させたが、支配人フセヴォロツキーと前任者プティパの板挟みになり、振付の構成に苦心惨憺したといわれている。
初演は1892年12月18日、サンクト・ペテルブルクのマリインスキー劇場で行われた。観客の反応はまずまずだったようだが、ポピュラーな人気を獲得するまでには時間がかかった作品のようである。全曲の演奏時間は90分弱と、「白鳥の湖」(約2時間30分)、「眠れる森の美女」(約3時間)に比べると遙かに短い。余談だが、クリスマス・年末には日本ではベートーヴェンの「第九」、イギリスの同時期にはヘンデルのオラトリオ「メサイア」が演奏されるが、同時期のアメリカでは、この曲が演奏されることが多い。
この演奏では、オーケストラの演奏会でよく取り上げられる組曲版ではなく、バレエ上演形式の第二幕から全12曲を抜粋して演奏している。
「お菓子の国と魔法の城」は、フルートは連続で登場する速いパッセージを弾きこなさなくてはならないから大変だ。ハープの音色からは、ファンタジーを感じさせる。チェロとコントラバスの奏でる重心の低い音に導かれ、王子とクララがステージに登場。チェレスタとコンマス掛け合う場面から一気にテンポが速くなる。
「スペインの踊り」はトランペットの音程が不安定なのが残念。カスタネットの音が、異国情緒を感じさせてくれる。
「アラビアの踊り」は、どことなく哀愁漂う。故国を離れた旅人の心境をおもんぱかったものか。弦楽器の奏でるメロディーの寂寥感は半端じゃない。
「中国の踊り」はタイトルに「中国」と入っているのに、この指揮者が奏でるメロディーはちっとも中国っぽくない。これのどこが「中国」なんだろう?
「ロシアの踊り」は勢いのいいコサックダンス。リズムの切れが素晴らしく、指揮者もオケもノリノリで演奏している。
「葦笛の踊り」では、金管楽器の表現力のすばらしさに感動。フルートの音色の可憐さも最高だ。
「ジゴーニュ小母さんとピエロ」は、なんだか野球部で使われるヒットマーチ風の音楽だが、中間部になると一転してゆったり目のテンポになる。ダンサーは、スキップしながら踊るのだろうか。最後の部分は、ロシアの濃厚な旋律が流れて終わる。
「花のワルツ」は、いかにもワルツといった風情。宮殿内のダンス会場で、好きな女の子と心ゆくまで(もちろん、ベッドの中でも)踊ることができたら、どんなにかいいだろう?スラブ的審美眼を湛えた旋律は、まさにチャイコフスキーの旋律そのものだ。最後の和音は、勢いよく終わったな。
「パ・ド・ドゥ」のハープの可憐な色と、スラブ色濃厚な弦楽器の音色が対照的。こんなにドラマティックな旋律があったのか。驚きである。
あっという間に終わった「ヴァリアシオンⅠ」のあと「金平糖の踊り」で有名な「ヴァリアシオンⅡ」。ゆったりとしたテンポで進行したと思ったら、終結部は一気にテンポが速くなり、コーダはハイテンションで一気に突っ走る。
終幕の「ワルツ」は、いかにも鹿鳴館あたりで演奏されるような雰囲気とテンポ。こんな雰囲気で、かつての皇室関係者・華族・財閥関係者・政府高官はお家存続のために知恵を働かせ、出世の糸口を掴もうと野心を持ち、閨閥構築のためにあれこれ動いていたのだろうか?最後の終わり方は、ワルツと言うよりマーチといったほうが想像しやすい。
アシュケナージの指揮テクニックは酷いかもしれないが、人格円満であることは確かなようだ。聴衆の「ブラボー」の声に、スコアを手にして振り返り、はにかむ指揮者というのも総滅多にお目にかかれるものじゃないぞと思ったりする。そして聴衆も、そんなアシュケナージを愛している。

コンサート・プラス プログラム

この日のコンサート・プラスは、コバチンスカヤのソロ・リサイタルから2曲を紹介。
「トランペットのカプリッチョ」はトランペットのための楽曲だが、彼女はここでは、ヴァイオリンという楽器を、まるでトランペットのように自在に演奏することに成功している。ピアソラの作品は情熱的な表現だとは思うが、あまりタンゴらしさを追求した表現とは言いかねる。とはいえ、バンドネオンとはまた違った雰囲気を醸し出しているのは確かなようだ。

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