「NHK交響楽団第1782回定期演奏会」

NHK交響楽団第1782回定期演奏会


チェロ協奏曲ニ短調(
無伴奏チェロ組曲 第1番 ト短調からサラバンド(J.S.バッハ)※アンコール

序奏
第一部
昼下がり
粉ひき女の踊り
お代官様
粉ひき女
ぶどう
第二部
近所の人たち
粉屋の踊り
お代官様の踊り
終幕の踊り

(チェロ)
林美智子(メゾ・ソプラノ)
(指揮)

2014年5月16日NHKホール

コンサート・プラス
「カルメン」組曲から
闘牛士
ハバネラ
闘牛士の歌
間奏曲
ロマの踊り

(指揮)

NHK交響楽団は今回の定期演奏会で、スペインの指揮者ヘスス・ロペス=コボスを迎え、オールスペイン・プログラムで望んだ。
ヘスス・ロペス=コボスは1940年生まれ。マドリード総合大学で哲学を専攻した後、ウィーン音楽院で指揮法を学んだという、異色の経歴を持つ。ベルリン・ドイツ・オペラ総監督、ローザンヌ室内管弦楽団首席指揮者を経て、2003年からマドリード王立劇場の音楽監督を務めている。

NHK交響楽団第1782回定期演奏会 プログラム

第1旋法によるティエントと皇帝の戦い

この作品の作曲家クリストバル・アルフテルは1930年生まれの、スペインを代表する現代作曲家。一族には音楽家が多く、作曲家ロドルフォ・アルフテル、指揮者・作曲家エルネスト・アルフテルはともに叔父にあたる。マドリード音楽院で学び、指揮者としても活動。作曲家としては、前衛的な技法とスペイン独特の伝統を盛り込んだ作品を多く発表しているという。
本作は作曲家・指揮者であり、現代音楽のパトロンとして知られたパウル・ザッハーの80歳の誕生日を祝う作品として作曲されたものである。1986年9月2日、スイス・バーゼルにて作曲者自身の指揮・バーゼル交響楽団の組み合わせで初演された。
アルフテルという作曲家は、名前も作品も今ままで聴いたことがなかった。冒頭の響きは、とても物悲しい。木管群が登場すると、いかにも「現代音楽だな」という響きが感じられるが、その響きは私の耳には音程が不安定に聞こえる。作曲者は、あえてそういう響きを狙ったのだろうか?不協和音の後にやってくる、チェロが奏でる物悲しい旋律。(放送開始)12分過ぎから、曲は不協和音モードのまま一気に盛り上がる。そのあと弦楽器群がエレジーを奏で、再び無調の不協和音が登場。打楽器の勇壮なリズムに乗って切れのいいマーチが出てくる。この部分は、団員も気分ノリノリで演奏しているのがわかる。アルフテルが他に書いた作品でも、楽譜に「枠内の音を任意不定の順序で繰り返す」とか「各演奏者は与えられた音を用いて、激しく、ソリストの演奏に即興的に反応すること」という指示があるそうだから、この作品もそういう指示があると思われる。木管群の細かいパッセージのあと、再び勇壮なメロディーが出てきたあと、曲は静かに中締め。ホルンが勇壮なメロディーを奏で、金管群が演奏する不協和音のあと、勢いのあるトゥッテイで曲は締めくくられる。うん、この曲は悪くない。

チェロ協奏曲ニ短調

この作品を書いたラロは、バスク系スペイン人の作曲家。16歳の時にパリに出てきて、作曲とヴァイオリンを学んだ。しかし作曲家としてはなかなか認められず、30歳代からの20年間は弦楽四重奏団のヴィオラ奏者として活動した。作曲家として認められるようになったのは、スペインが生んだ大ヴァイオリニスト・サラサーテをソリストに迎えて初演したヴァイオリン協奏曲が成功した1874年以降である。
この曲サン=サーンスが書いたチェロ協奏曲第1番イ短調に触発され、1876年に作曲され、チェリストのアドルフ・フィッシャーに献呈された。初演は1877年12月、フィッシャーのソロ、ジェール・バドルー指揮コンセール・ポピュレールによっておこなわれた。
ソリストのヨハネス・モーザーは、1979年ミュンヘン生まれのドイツのチェリスト。8歳で、ベルリン・アイスラー音楽院でダヴィッド・ケリンガスに師事。2002年のチャイコフスキー・コンクールチェロ部門で最高位を受賞して注目を集め、世界各地で演奏活動を展開している。
第一楽章は、情熱的な序奏で始まる。朗々と楽器を響かせるモーザーのチェロ。フルートの、哀愁のおびた音色のあと、第一主題を奏でるチェロはとても情熱的で集中力がとても強い演奏。リズムの切れ味も鋭く、指揮者・オケの積極的にコミュニケーションをとろうという意思が感じられる。細かいパッセージも難なくクリアしたと思ったら、最後に一音外した(ように)聞えたのが残念。第一楽章の後半では、のびのびと楽器を鳴らしている。33:00過ぎの、テンポを落としての弱音も素晴らしい。終盤のオーケストラの音色に少々迫力がなく、最後の最後になって音を外したのが不満だった。
第二楽章は「間奏曲」という指定だが、聞こえてくるのは夜想曲。第一楽章にもまして、チェロは情熱的な響きを聴かせる。中間部になるとフルートの音色にのって明るく、オーケストラと親密な対話を繰り広げてから、再び情熱的な表情を取り戻す。弱音でのピチカート、フルートに低音で延々と音を出させるなど、演奏家にとってはかなりハードな展開である。
第三楽章は長大なチェロのカデンツァとオペラばりのトゥッティが特徴。チェロの音色が汚くなってきたのは、疲れが出たのか、あるいはあえてそういう音を出しているのか。思い切り情熱を込めてチェロを響かせるモーザー。最後のパッセージも楽々と弾きこなして、見事フィニッシュ。
アンコールは、J.S.バッハの無伴奏チェロ組曲第1番からサラバンド。一音一音、丁寧に心を込めて弾いているというのがわかる演奏。演奏者の人柄がよくわかる。弱音と高音を巧みに使い分け、荘厳なバッハの世界を見事に表現。なんと素晴らしい音楽だろう。

バレエ音楽「三角帽子」

ファリャは1890年代からピアノと作曲を学び、パリ滞在中(1907~14年)はドビュッシーと親交を結び、オペラ・コミック座で作品が上映されるなど、パリの音楽界で名前を知られるようになった。第一次正解大戦勃発でスペインに帰国、以後は故国で作曲家として活動する生活を送る。しかしスペイン内乱勃発でアルゼンチンに亡命、亡くなるまで同地で暮らすなど、波瀾万丈の人生を送った。
この作品は、スペインの作家アラルコンがアンダルシアの民話を元にした短編小説に、ファリャが曲をつけた。もともと彼はこの作品をパントマイム作品として作ることを計画していたが、ディアギレフが元の小説をバレエ作品として企画し、その音楽をファリャに依頼したことから、バレエ音楽としての計画を進めることになった。1917年に作曲が完成したが、第一次世界大戦中だったこともあり、初演は同年4月、ホアキン・トゥリーナ指揮マドリード・フィルハーモニック・オーケストラの演奏で行われ、バレエとしての初演は1919年7月、ロンドン・アルハンブラ劇場においてバレエ・リュス、指揮はエルネスト・アンセルメによって行われた。初演時の舞台美術・衣装をピカソが、アメリカ初演時の舞台美術をダリが担当したことを知っているクラシックファンは、どのくらいいるのだろうか?
この曲に登場するメゾソプラノの林美智子は、東京音楽大学から桐朋学園大学研究科を卒業した後、二期会オペラスタジオを経て、新国立劇場オペラ研修所に第1期生として終了した経歴を持つ。終了後は文化庁派遣芸術家在外研修員としてミュンヘンへ留学に留学した。2002年、新国立劇場「ヘンゼルとグレーテル」でオペラデビュー後は、国内外の舞台で活発な演奏活動を展開。リサイタル活動も積極的に行い、R.シュトラウスやプーランクの歌曲を取り上げている。
冒頭のかけ声は団員が出すのね。ソリストは、そのかけ声に導かれて登場する。情熱的な歌唱に煽られたか、オケが奏でるフレーズもとても情熱的。
第二部で、ベートーヴェンの「運命」に似たフレーズが出てくるのには笑ってしまう。夫婦は代官の罠にはまり、牢屋にぶち込まれる。弦楽器の寂しげな音が、それを暗示する。メゾ独唱が「牢屋にカギをかけておけ」とうたい、木管群がカッコウのフレーズを繰り返す。夫婦を牢屋にぶち込んだお代官様は、得意げにダンスを披露する。粉屋の踊りの終盤ピアノが出てくるところは、何となく協奏曲っぽい。
そして終幕。「カッコウ」のフレーズが繰り返される。粉屋は代官の服を着て牢屋に向かい、代官は町の人から袋だたきにされる。終幕の盛り上げ方はうまい。金管群も木管群もノリノリで演奏され、民衆の「正義は我にあり」という雰囲気をを前面に打ち出している。打楽器が歓喜の時を知らせ、弦楽器も細かいパッセージでそれに応える。でもネット上では、この演奏は全体的にビート感が物足りないという意見もちらほら見られた反面、手中に収める演奏という意見があった。指揮者の演奏スタイルは、視聴者によって好みが分かれるようだ。

コンサート・プラス プログラム

「カルメン」組曲から

コンサート・プラスは、これまた有名曲の「カルメン組曲」。
「カルメン組曲」は、もちろんビゼー作曲の歌劇「カルメン」からとられているが、組曲版を編成したのは本人ではなく、オーストリアの音楽学者であるフリッツ・ホフマンの手によるものである。だが残念なことに、彼の「人となり」は1873年生まれということ以外、詳しいことはわかっていない。組曲は「第一組曲」と「第二組曲」から構成されているが、作曲者自身の手によるものではないため、指揮者が曲順を組み替えて演奏することも頻繁にある。この演奏でも放送枠の影響から、曲順は大幅に変えられている。
闘牛士の歌は、弦楽器がしなやかに歌っている。ハバネラは、誰かが歌っているように聞こえる。オケ全体で、歌手の役割を果たしている。金管楽器が歌う「闘牛士の歌」は、もうちょっとたくましさを感じさせて欲しいなと思う。ソロ・トランペットの音程がちょっとアヤシいところも。「間奏曲」ではフルートとハープが儚げな音色を醸し出す。このあとの、二人の悲劇的な運命を予感させる。「ロマの踊り」は、私が一番好きな曲である。最初はゆったりとしたテンポで始まるが、曲の進行とともにアップテンポになり、最後は何が何だかかっ飛ばす、という感じが最高。だが木管楽器の合唱の音色が今ひとつ。トランペットの音、こちらの方が魅力的。だがひ弱さを感じさせるのはどうしてだろう?

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