「モルゴーア・クァルテット演奏会」

モルゴーア・クァルテット演奏会

1.21世紀のスキッツォイドマン(キング・クリムゾン)
2.月影の騎士(ジェネシス)
3.弦楽四重奏曲第7番嬰ハ短調 作品108(
4.悪の教典#9 第一印象パート1(ELP)
5.暗黒(キング・クリムゾン)

荒井英治(第一ヴァイオリン 東京フィルハーモニー交響楽団ソロ・コンサートマスター)
戸澤哲夫(第二ヴァイオリン 東京シティフィルハーモニック管弦楽団コンサートマスター)
小野富士(ヴィオラ NHK交響楽団フォアシュピーラー)
藤森亮一(チェロ NHK交響楽団チェロ首席奏者)
2015年4月23日放送 クラシック倶楽部

現在NHKで放映されているクラシック番組は、全部で3つある。NHK−Eテレで放映されている、地上波唯一のクラシック番組「クラシック音楽館」は、N響を中心に国内外のオーケストラの演奏会の模様を中継し、BSプレミアムで放映されている「プレミアムシアター」は、海外のオーケストラや歌劇場の公演を中心に放送しているのに対し、BSプレミアムで平日(月〜金曜日)早朝に放送される「クラシック倶楽部」は、室内楽曲・器楽曲・歌曲・声楽曲の演奏会を放送している。
この日登場したモルゴーア・クァルテットは1992年、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲を演奏するために結成され、1993年6月、最初の定期演奏会を開催する。2001年1月に開催した第14回の定期演奏会で、ショスタコーヴィチの作品を全曲演奏を達成。同年4月、第二ヴァイオリン担当者が現在の戸澤に交代し現在のメンバーになる。各メンバーは、所属オーケストラで首席奏者やコンサートマスターを務める達人揃いであり、現代音楽を主なレパートリーにしているが、ベートーヴェンやボロディンなどの作品も、定期演奏会で上演している。
今回の演奏は、ショスタコーヴィチの作品以外は「プログレッシブ・ロック」といわれる作品であり、弦楽への編曲は第一ヴァイオリンの荒井が担当した。彼はインタビューでプログレッシブ・ロックの大ファンである事を公言している。彼らが2012年、2014年に発表したアルバムは、プログレッシブ・ロックを弦楽四重奏で演奏するという野心的なプログラムであり、その音楽性は各方面で話題になった。

モルゴーア・クァルテット演奏会

21世紀のスキッツォイドマン(キング・クリムゾン)

この曲と最後の「暗黒」の演奏者であるキング・クリムゾンは、イギリスを代表するプログレッシブ・ロックを代表するバンド。アルバム・デビューは1969年だが、その後は頻繁に活動停止&再開、メンバーチェンジを繰り返しており、音楽性デビュー時のプログレッシブ・ロックから、1990年代にヘヴィ・メタルに変わっているにもかかわらず、日本・海外問わず人気のあるバンドである。
この曲はデビューアルバム「キング・クリムゾンの宮殿」(1969年発表)に収録されている。当初「21世紀の精神異常者」という邦題だったが、レコード制作基準倫理委員会の基準が変化したため、今のタイトルに変更された。発表された当時は、ベトナム戦争に代表されるように世相が混沌としており、その影響は歌詞にも暗い影を落としている。
全体に響きが汚い演奏だが、彼らはあえてそういう響きを指向しているのだろう。やりたい放題やる2人のヴァイオリニストを、チェロとヴィオラは逞しく朗々とした響きで支えているという印象を受ける。自分はロック系の音楽を聴いている時は、ベースなどの重音系の音に真っ先に注意がいくタイプなので、藤森のチェロが繰り出す野太いリズム音に惹きこまれた。展開部に入ると、ヴァイオリニストのやりたい放題が頂点に達するが、第一主題が戻ってくると、また自分の本来の役割に戻るところが面白い。最後の不協和音は、さすがにプログレッシブ・ロックといったところか。

月影の騎士(ジェネシス)

ジェネシスは1967年、ピーター・ガブリエルを中心に結成されたイギリスのロック・バンド。私がこのバンドの名前を知ったのは、本格的に洋楽を聴くようになった1980年代になってからだが、その時は創立メンバーであるガブリエルは脱退(1975年)しており、ドラマーのフィル・コリンズがリードヴォーカルを務めていた。そのコリンズも脱退と復帰を繰り返し、脊髄手術の後遺症が原因で引退を表明(2008年)。バンドは2010年に「ロックの殿堂」入りを果たした。
この曲は1973年に発表された、ジェネシス6枚目のアルバム「月影の騎士」に収録されている曲の1つ。原題は「Selling England by the Pound」は、当時の野党・労働党の「イギリスをポンドで売ります」というスローガンからとられている(それにしても、何とも政治的なタイトルですこと!)。
冒頭の叙情的なメロディが印象的な楽曲。1曲目とは対照的に、旋律を思い切り歌わせることに重きを置いている。テンポが速い部分では、汚い響きを繰り出すこともいとわないのは彼らの主義か。テンポが速くなる部分でも、音程を少しも外さないのは、それだけ彼らが高い技術力を持っている証拠か。彼らの演奏を聴いてみると、原曲もぜひ聴いてみたくなる。ロックにしては曲が長いのは、この当時長い曲が好まれる傾向があったから。クラシックでは1曲10分以上が当たり前だが、ロックではライブ演奏でもない限り、これだけ長くなることはない。終盤の響きは物寂しさを感じる。

弦楽四重奏曲第7番嬰ハ短調 作品108(ショスタコーヴィチ)

ショスタコーヴィチは全部で15曲の弦楽四重奏曲を書いているが、この曲は最も短い曲である。1960年5月にベートーヴェン弦楽四重奏団によって初演され、最初の妻であるニーナに捧げられた。全三楽章で構成され、全曲は切れ目なく演奏される。
第一楽章は、亡き妻の思い出を語っているという感じ。いろんなことがあったけど、やっぱり自分にとっては過ぎたる妻だということがわかったのだろう。時間とともに、彼女を喪った悲しみがじわじわとわき起こってくる、そんな音色である。
第二楽章。主旋律が第一ヴァイオリンから順番に引き継がれていく。黄泉の国の妻に夫が呼びかけ、それに妻が答えるという構図なのだろうか?夫は悲しみが癒えることはなく、創作意欲が全くわき上がらない。ニーナお願いだ、できることならもう一度こちらの世界に戻ってきてくれ。そんな雰囲気が漂ってくる。
第三楽章。そんな夫に業を煮やしたのか、妻が天国から夫を叱咤激励する。あなたは立派な音楽家なのよ!もっともっと傑作を書いて、お国と世界中の聴衆を喜ばせなさい!夫もそんな妻の激励に立ち上がる気になったのか、ようやく創作意欲を取り戻したのだろう。ヴァイオリンが奏でるメロディは、次々とわき起こるメロディを書き留めるのももどかしいという様子が垣間見える。終盤の響きは、妻の墓前にて近況報告をする作曲家の様子が目に浮かぶ。妻よ、お前がいた頃は実に楽しかったよ。私は頭の中にわき上がるメロディーを、楽譜に書き留めるのがもどかしいくらいだった。私の活動を、天国から見守っていてくれという、作曲者の心情が垣間見える演奏である。

悪の教典#9 第一印象パート1(ELP)

1970〜80年代を中心に活動し、クラシック音楽をロック・バンド編成で演奏するなどで注目を集めたエマーソン、レイク&パーマー(ELP)が、1974年に発表したアルバム「恐怖の頭脳改革」に収められている曲である。このアルバムには「悪の教典」というタイトルがつく曲が全8曲中4曲が収められ、それぞれに第一〜第三の数字がつけられている。さらに「第一印象」は「パート1」「パート2」の2曲があるが、今回は「第一印象パート1」が演奏された。
冒頭からチェロが朗々とした響きを繰り出し、響きに一体感が出てきた。リズムの切れも申し分なし。弦楽器を弾きこなすギタリストやベーシストが、弦楽四重奏曲を演奏したら、こういう響きになるのだろうか。勢いに乗って頭を振りながら、立ったまま弦楽器を演奏し、観衆に向かって「イェーイ!!」と絶叫するクラシックの音楽家はいない。でもこの曲を聴いていると、演奏者はステージの上で絶叫し、聴衆を煽りたい衝動に駆られるのではないか。モーツァルトやベートーヴェンが生きていた頃の聴衆も、彼らが新曲を発表した初演の演奏会で、新しい表現と息吹を感じていたのだろうか。

暗黒(キング・クリムゾン)

1974年に発表されたアルバム「暗黒の世界」に収録されている曲。西側諸国の経済は順調に発展し、人々は消費を謳歌していたものの、その前年に起こった「石油ショック」は、未来の繁栄は約束できないということを、市民に思い知らせるには十分過ぎるショッキングな出来事だったに違いない。ベトナム戦争はほぼ北軍勝利の道筋が見えてきたとはいえ、まだまだ世界は東西冷戦の真っ最中。日本といえば、田中角栄内閣が「金権政治疑惑」で斃れる寸前にまで追い込まれ、国内各地は大気汚染の問題が頻発していた。主婦が主導する消費者運動が激しかったのもこの頃である。明るい展望を描けない中で一般市民達は「明るい未来」を目指して煩悶する。そんな時代背景をくみ取ったのか、何ともやるせない感情、どうしようもない憤りを感じさせる演奏になっている。助けてくれ助けてくれ助けてくれ。だがただ助けてくれといっても、誰も助けてくれない。結局は、自分の道は自分で切り開くしかないのだ。

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