NHK交響楽団 第1776回定期演奏会

1776回定期演奏会 プログラム

交響曲第7番ニ短調作品70B.141
交響曲第8番ト長調作品88B.163(以上ドヴォルザーク)

(指揮)
NHK交響楽団
2014年2月14日 NHKホール

コンサート・プラス プログラム

交響曲第8番ヘ長調作品93(
ネヴィル・マリナー(指揮)
NHK交響楽団
1979年5月25日 NHKホール

N響が今回の定期演奏会で迎えた指揮者は、今年御年90歳を迎えるネヴィル・マリナーである。私は小さい頃からクラシック音楽を聴いていたが、自分でお金を出してCDを買うようになってからは、いろんなジャンルの作品・演奏家を聴いてきた。私がマリナーの名前を知ったのは1980年代後半だが、その頃の彼はアカデミー室内管弦楽団を率い、バロック音楽やモーツァルトのスペシャリストとして名前が知られていた。本稿を書くにあたり、彼について調べてみると、この30年間で膨大なジャンルの曲をレパートリーに加えていることを知った。「老いてなお盛ん」とは、まさに彼のためにあるのだろうと思う。
彼の父親はクラリネット奏者で、自身はロンドン王立音楽院を経てパリ音楽院に留学し、オーケストラでヴァイオリニストとして活動した後、フランスの名指揮者ピエール・モントゥーに指揮法を学んだ。指揮者デビューは1959年、自らが結成したアカデミー室内管弦楽団の演奏会だから、指揮者としても半世紀以上のキャリアがある。モーツァルト演奏で実績を積んでいるマリナーが、ドヴォルザークにどうアプローチするのか、興味津々でこの演奏を聴いた。

交響曲第7番ニ短調作品70B.141

ドヴォルザークは1884年、ロンドン・フィルハーモニック協会の招待でイギリスを訪問し、現地で熱烈な歓迎を受けた。帰国後にドヴォルザークは同協会の名誉会員に選ばれ、新作の交響曲の依頼を受けた。この曲は1884年から1885年にかけて作曲され、1885年4月、作曲者自身の指揮で、ロンドンで初演された。楽器法や拍子などに、ブラームスの交響曲第3番の影響を指摘する見解もある。
第一楽章は冒頭はティンパニの響きに導かれてヴィオラとチェロが第一主題を表現するが、ティンパニの響きが弱い。これは録音のせいか、指揮者の意向か、はたまた奏者の力不足か?だが弦楽器の艶やかな音色と響きはとてもいい感じ。そしてティンパニも、だんだんと調子を取り戻してくる。演奏前のインタビューで、マリナーは「弦楽器には難技巧が要求される」と語っていたが、聴いている側はそんなことはわからない。
第二楽章は、木管群が穏やかに絡んで始まるコラール風の冒頭部、ホルンの奏でる牧歌的な節回しが印象に残る。牧歌的な音色が耳に残る木管群、対照的に弦楽器の表現はとてもドラマティックである。24:40過ぎからのチェロの音色は素晴らしい。この曲はブラームスの交響曲第3番を聴いてから作曲されたそうだが、この楽章はその影響が随所に窺われる。オーボエが奏でる導入に続く木管群のやりとり。弦楽器の弱音は趣があってよい。
第三楽章冒頭で弦楽器が奏でるのは、チェコの伝統舞曲フリアント。第一部最後の弦楽器の表情はすごくいい。第二部32:40秒近くで弦楽器群が強烈な主張をする。威力あるティンパニに導かれて登場する第三部。このリズムとテンポに乗って踊るバレリーナの姿を見てみたいな。街の広場で、年頃の男女が情熱のままに激しく踊る姿をつい想像してしまう。そして、第三部終盤のヴィオラの主張はかなり激烈である。
一拍休んだだけで、第四楽章の演奏がはじまる。ジワリジワリと盛り上がる弦楽器。39:00過ぎに、勢い余って金管群が音を外したのでは?と思われるところもあったが、何事もなかったようにオーケストラはゆったりとメロディーを奏でていく。42:00からのティンパニの響きは力強い。終盤に流れる旋律はチェコの舞曲とブラームスの合作という印象。フィナーレのティンパニの響きも、思い切りブラームスの影響を受けている。齡90にしてこれだけコントラストが明確な演奏が出来るとは!退場時、コンマスと肩を組んで舞台袖に下がる姿は何ともいいものである。

交響曲第8番ト長調作品88B.163

1889年に作曲され、翌年プラハで初演された作品である。ボヘミア的なのどかで明るい田園的な印象が特徴的で、第一楽章と第四楽章は、ブラームスの影響を受けていると言われている。楽譜がイギリスの出版社から発行されたため、かつてこの曲には「イギリス」という副題がついていた。だが音楽の内容はチェコの風景であるため、その副題で呼ばれることはなくなった。
第一楽章は哀愁を帯びた旋律から、一気に盛り上げていく指揮者の手腕は見事である。52分過ぎからのティンパニの打撃も効果的。ボヘミア的な土俗性と近代性が入り交じった音楽。今まで聴いてきた演奏に比べて、マリナーは音の強弱、緩急を多用し、曲のコントラストを明確に表現するように感じられる。バストロンボーンの威力は半端ではなく、生の演奏会場では、聴衆はかなり迫力があるように感じるだろう。リズムも引き締まって弛緩することがない。
第二楽章における木管群と弦楽器のやりとりは、聞いていて楽しい。小鳥のさえずりを音に翻訳したのだろうか?ティンパニは雷鳴?ソロ・うヴァイオリンを担当するのはコンサートマスターだが、この音色が美しい。1:05:30前後の響きはオルガン的。1:07:10過ぎの旋律、作曲者は何を恐れていたのだろうか?しかし、約1分後には何事もなく弦楽器はのびのびとした歌を聞かせる。
第三楽章は全曲で最も有名な楽章。ワルツになっているのがユニークである。普通のワルツは明るいイメージだが、この曲のワルツはどこか憂いを秘めている。ドヴォルザークは、どんな苦難を体験したのだろう?こんなに笑えないワルツは初めてである。だが終結部は一気にテンポが速くなり、雰囲気も明るくなる。
この曲も1拍休んだだけで、第四楽章がはじまる。冒頭のトランペットのファンファーレは、軍隊の勝利を表現する勇壮な感じで始まる。主題と18の変奏から成り立つが、全体をソナタ形式風にまとめた自由な変奏曲。1:20:00前後の旋律は、勢いのいいトルコ風の行進曲。この旋律は絶対スラヴでもゲルマンでもない。似たような旋律が続くと思っていたら、これは変奏曲だったのね。終わる直前一小節休みがあるのだが、あまりはっきりと表現されなかったな。終演後、90歳の指揮者を讃える拍手が鳴り止まない。客席はずっと総立ち、コンマスの笑顔が、この日の演奏がうまくいったことを物語っている。

交響曲第8番ヘ長調作品93

コンサート・プラスは、1979年にマリナーが来日し、N響と共演した時の演奏。みな若い。当時のコンマスは徳永二男さん。その隣に座っているのが、今日のコンサートでコンマスを務めた人。今と当時とでは、オケの雰囲気がまるで違う。まるでまじめなサラリーマンが音楽をやっている雰囲気、モノラル音声も時代を感じさせるなあ。
演奏したのは、ベートーヴェンの交響曲第8番。ベートーヴェンの交響曲で一番小さい曲である事を意識したのか、編成も小さめ。コントラバスは、よくあれで演奏できたなと思うくらいの位置に置かれている。当時はアレがスタンダードなのだろうか?
モーツァルト演奏の大家として有名なマリナーだが、この頃からベートーヴェンも取り上げていたのね。というより、今と違ってくラシック人気は限定的だったから、おそらくNHKサイドから「ベートーヴェンを演奏してくれ」とでも頼まれたのだろうか。まじめくさったベートーヴェンに、所々でモーツァルト的な解釈が混じった演奏。そして、木管群は全体的に音程が甘い。今と違って、当時は聴衆も限定的だったから、ミスを厳しく指摘することもなかっただろうし。弦楽器の響きは、ベートーヴェンというよりモーツァルト。弦楽器の動きも、どことなくロボット的。メリハリの付け方は、今も当時も変わらないな。
宇野功芳が自著でN響を「プロずれがしていて、ややもすれば事なかれ主義の演奏をするオーケストラ」と酷評しているが、この演奏では、そんなことを言われてもしょうがないな。当ブログでこの曲を取り上げるのはノリントン、ティーレマンに続いて3回目だが、今回の演奏が一番で気が悪いのは致し方ない。

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