N響ホープコンサート2014

NHKとNHK交響楽団及びNHK厚生文化事業団は、毎年これからの活躍が期待される若い演奏家を招いて「「N響ホープコンサート」を開催している。
2014年に開催されたプログラムは以下の通りである。

N響ホープコンサート2014 プログラム

ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調 作品19(
(ヴァイオリン)
歌劇「」から(
「冷たい手を」
「私の名前はミミ」
「愛らしい乙女よ」
(ソプラノ)
(テノール)
ピアノ協奏曲第1番変ロ短調 作品23(
(ピアノ)

(指揮)

2014年9月5日 NHKホール

ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調 作品19

ヴァイオリニストの大江馨は、2013年開催の第82回日本音楽コンクール第1位。異色なのは、彼は音楽大学ではなく、一般大学に籍を置きながら演奏活動をしていること。以前は大学を卒業したら、一般企業の就職を考えていたそうだが、コンクールで1位を獲得したことで、プロになる覚悟が出来たという。今後は海外に留学し、国際コンクールへの挑戦も視野においているそうだ。そんな彼がこの日のコンサートで取り上げたのは、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調
プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲は2曲あるが、この曲は1916~17年にかけて作曲された。初演は1923年10月、パリ・オペラ座において、セルゲイ・クーセヴィツキー指揮、マルセイ・ダリウー独奏で行われた。
第一楽章の冒頭からのびのびとした歌を聞かせてくれるが、中盤過ぎからは、意図的なのだろうかあえて汚い、いかにも「現代音楽です」といわんばかりの節回しを見せる。実は、私はこの曲を聴くのが初めてであり、それもあってか、あまり曲の魅力が伝わってこない。終盤はフルートに支えられてのびのびと歌っているといえば聞こえはいいが、知らない人間からすれば「好き勝手にやっている」という印象を持つかも知れない。そして終結部はデモーニッシュな響きが漂う。革命だ革命だ、帝政がひっくり返るぞ!そんな雰囲気が漂ってくる。
第三楽章 弦楽器の響きは、紅軍(ソビエト共産党の軍隊)の行進を表現しているのだろうか?ヴァイオリンのソロは、これからの生活は一体どうなるのだろうという、作曲者の不安を表現しているように思えてならない。後半の音色は、悟りきった作曲者の心中なのだろうか?新体制と仲良くやっていけるのか?どこかで踏ん切りをつけなくてはいけないという、彼の覚悟の表れなのかも知れない。
この曲が書かれた時期は、ロシア革命前後の時期に当たるので、この曲は作曲者の不安な心理の表れといえるだろう。実際彼はロシア革命の混乱をを避けるため、10年以上海外で暮らしていた(1918~32年)。シベリア鉄道から日本経由で南米に亡命することを考えていたが、船便の関係から2ヶ月ほど日本に滞在し、日本のクラシック音楽関係者と交流を持った。彼との交流は、日本の音楽界に多大な影響を与えたと言われている。その後米仏両国で、音楽活動を活発に展開する。亡命の理由は、共産党政権に対し言いようのない不安を抱いていたからだが、祖国への愛情は立ちがたいものがあり、1933年に帰国。帰国後は作風も変化し、現代的な感覚と豊かな叙情性を併せ持つ、沢山の傑作を残すことになる。

歌劇「ラ・ボエーム」から

ソプラノの小林沙羅の経歴も、また変わっている。坂東玉三郎が主催する演劇塾「東京コンセルヴァトリー」の特別聴講生になったのは10歳の時。舞台女優にあこがれ、声楽を学びはじめたのは17歳から(少々遅いか?)。東京芸大から芸大大学院を経て、2006年コンサートデビュー、日本でのオペラデビューは2009年。2012年にソフィア歌劇場(ブルガリア)で海外オペラデビューを果たし好評を博すなど、海外での活動の場も徐々に広がっている。
テノールの宮里直樹の父親は、N響のヴァイオリン奏者である。彼もまた東京芸大から芸大学院修了という経歴の持ち主。国内外のコンクール受賞経験も豊富である。
そんな二人が選んだのは、プッチーニのオペラ「ラ・ボエーム」からアリア3曲。「冷たい手を」は詩人ロドルフォの、「私の名前はミミ」はお針子ミミの自子紹介のアリア。そして「愛らしい乙女」は、ロドルフォとミミの二重奏である。ロドルフォがミミを口説いている。ボクは詩人ですといい、詩の世界を借りてミミを一生懸命くどく。ミミもロドルフォに好意を持ったのか、日常を語りはじめる。太陽を愛し、神を愛し、そして花と植物を愛する優しい女性である。花に香りがないというのは、恋人がいないから付き合ってと、遠回しに誘っているのかも知れない。そして恋は成就し、二人は手を取り合って退場する。舞台袖から退場しただけで、曲自体はまだ終わっていないのに「ブラボー」のかけ声と拍手が出てくるのはどういうわけか?これは「自分はクラシックのことをよくわかっていませんよ」と白状しているようなもので、演奏者には失礼だろう。

ピアノ協奏曲第1番変ロ短調 作品23

3人目の出演者は、1991年生まれの石井楓子。彼女は両親がピアノ教師という、才能を伸ばすには絶好の環境で生まれ育った。5歳で桐朋学園大学附属子どものための音楽教室に入室してから、大学卒業までを桐朋学園で過ごした石井は、なんと9歳の時にニューヨーク・カーネギーホールのステージに登場。2002年、弱冠11歳で第56回全日本学生音楽コンクール小学校の部全国大会第1位に輝き、2009年、18歳で国内コンサートデビューを果たす。海外のコンサートデビューは2012年のルーマニア。2013年、日本音楽コンクールピアノ部門第1位。ピアノ部門で女性が1位に輝いたのは8年ぶりである。
そんな彼女が今日のステージで演奏するのは、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番変ロ短調。この曲は、彼女の海外コンサートデビューの時に弾いた曲である。
この曲は1874~75年にかけて作曲された。その動機は友人であるモスクワ音楽院院長のニコライ・ルビンシテインに初演してもらおうと思ったからだが、ルビンステインは
「この作品は陳腐で不細工であり、役に立たない代物であり、貧弱な作品で演奏不可能であるので、私の意見に従って根本的に書き直すのが望ましい」
非難し、演奏を拒否した。チャイコフスキーはルビンシテインの意見を無視、別のピアニストに献呈することを前提に作曲を進め、オーケストレーションが完成したあと、当時の大物ピアニスト・指揮者である、ドイツ人のハンス・フォン・ビューローに献呈された。
この曲を「独創的で高貴」と評価したビューローは、1875年10月、ボストンにて自身のピアノ、ベンジャミン・ジョンソン・ラング指揮で初演し、大成功を収める。その様子はチャイコフスキーに電報で知らされたが、いかなり理由からか、ビューローは自身のレパートリーからこの作品を外した。
世界初演から一週間後の11月1日、サンクトペテルブルクにてグスタフ・コフのピアノ、エドゥアルド・ナプラヴニークの指揮でロシア国内の初演が実施された。モスクワでの初演は、作曲時の献呈を拒否したルビンシテインの指揮、セルゲイ・タネーエフのピアノにより行われた。ルビンシテイン自身も、この曲の独奏を受け持ち、この曲を世間に広めさせる役割を果たした。
第一楽章での彼女は、一音一音、くっきりと音を鳴らしていく。テンポもゆっくりひくところはゆっくり、激しくひくところは激しく、ロマンティックな部分は思い切り己の感情をこめる。ひょっとしたら、恋い焦がれている人がいるのだろうか?それは身を焦がすような激しい恋か、あるいは道ならぬ恋なのか?はたまた一夜限りの激しい恋なのか?そんな妄想を抱かずにいられない、烈しい演奏。曲に対するありとあらゆる感情を、彼女は思いきり鍵盤にたたきつける。ほとばしるパッション、そこかしこに漂うエロスの臭い。それだけに、終盤ミスタッチが出たのはもったいない。動揺したのか、ミスタッチ後に奏でる音は多少濁って聞える。カデンツァは、今までの思いをぶつけた演奏。表面上は楚々として育ちのいいお嬢さんという衣を纏っているが、やっぱりオンナが持っている本性は隠せない。思うにいかない日常のモヤモヤを、ピアノへの情熱へと昇華して見せた。ベッドの上で思い人に身を委ね、まさぐられ、貫かれ、悶え狂い、燃え上がり、オーガズムに達し、果てる。彼女が小悪魔的な雰囲気を漂わせているから、そんないかがわしい感情を抱いてしまうのだ。
第二楽章における弦楽器のピチカートは、男の後戯における愛撫。フルートの音色は「愛している」という恋人のささやき、そしてピアノの音色は、情熱的に愛してくれてありがとうと礼を言う女性。最初のフレーズの最後で、ちょっと音程が狂ったのはご愛敬。ピアノを弾いている彼女の表情は、男を、恋を、そして愛される悦びを知っているオンナのそれ。中間部の速いピアノのパッセージには、次はどんなテクニックで彼を喜ばせてやろうかという、小悪魔の野心が顔が覗く。男の手が彼女の柔肌に触れる度に、オンナは嬌声を上げる。男は女の柔肌をゆっくり優しく愛撫しながら、耳元で愛の言葉を囁く。そして第三ラウンドへ。
第三楽章で再び男は彼女の中に入り、激しく突き、グラインドし、動き回る。女はベッドの上で醜態を晒す。その姿を知っているのは、今抱かれている男だけなのか、それともこれまでにもそういう経験を積み重ねてきたのか、それは当人しかわからない。やがてオンナは男の上にまたがり、己の下半身を激しくグラインドする。男も、女を満足させようと必至になる。テンポを落とし、男の愛撫に身を委ねる女。再びやってくる絶頂。それは今まで体験したことのない未知の世界。男の細かい腰の動きにオンナはついに落城、一回目以上の強烈なオーガニズムに達する女。汗にまみれたオンナの体を抱きながら、男はもう一度つぶやく。「愛している」と。女もそのささやきににっこりと微笑む。どうかこの恋が成就しますように。

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