NHK交響楽団 第1775回定期演奏会

第1775回定期演奏会プログラム


ヴァイオリン協奏曲ニ短調 作品47(以上シベリウス)
パガニーニの奇想曲 24番の主題によるパガニーニアーナ(ナタン・ミルシテイン)※アンコール
交響詩「四つの伝説」作品22(

ワン・ジジョン(ヴァイオリン)
(指揮)
NHK交響楽団
2014年2月8日 NHKホール

コンサートプラス プログラム

「マノン・レスコー」より間奏曲(
(指揮)

NHKスタジオ収録

NHK交響楽団は、第1775回定期演奏会の指揮者に、日本を代表する指揮者・尾高忠明を迎え、オールシベリウスというプログラムを組んだ。
日本のクラシックファンで、尾高の名前を知らない人はいないだろう。1947年11月鎌倉市生まれ、父は日本を代表する指揮者・作曲家の尾高尚忠。親戚に演出家・作曲家がおり、父の姉弟にも有名な学者が多く、妻もピアニストという、誰もがうらやむような環境で育ったサラブレッドである。
桐朋学園大学斉藤秀雄に師事、民音指揮者音楽コンクールで2位に入賞の後ウィーンに留学、1971年にNHK交響楽団を指揮してデビュー。その後も国内外のオーケストラで活発に指揮活動をするとともに、クラシック音楽番組に出演して、クラシック音楽の啓蒙活動に尽力した。桂冠指揮者・名誉客演指揮者になっているオーケストラも多く、2010年からは、NHK交響楽団の正指揮者として活動している。
この日のソリストであるワン・ジジョンは中国生まれの新鋭ヴァイオリニスト。上海音楽院でチョーリャン・リンズッカーマンに師事。1998年メニューイン・コンクールのジュニア部門で、同年には第6回中国ヴァイオリン・コンクールに史上最年少で優勝。2003年には第22回リピザー国際ヴァイオリン・コンクール(イタリア)で優勝したほか、「最年少ファイナリスト」を含む3つの特別賞と優勝を獲得した、新進気鋭のヴァイオリニスト。現在ベルリンのハンス・アイスラー音楽大学でコーリャ・ブラッハーに師事し、昨年日本デビューした。

アンダンテ・フェスティボ

この曲は、もともと弦楽四重奏曲として1925年に作曲された。5年後の1930年に、ティンパニを含む弦楽合奏用に編曲され、楽譜は1941年に出版された。現在では、弦楽合奏曲として演奏されることが多い。作曲者のお気に入りの曲だったらしく、しばしば自らが指揮する演奏会のプログラムやアンコールで取り上げられている。1939年には自演が録音され、のちにCD化されたが、最初にCD化された演奏が、実は別人のものだったというエピソードが残っている。
日本ではなかなか耳にしない曲だが、残念ながらこの演奏からは、何の感興も感動も呼ばなかった。ただ弦楽器が鳴っているだけである。

ヴァイオリン協奏曲ニ短調 作品47

シベリウスが作曲した、唯一の協奏曲である。
彼は若かりし頃ヴァイオリニストを目指していたが、あがり症のためにその夢を断念してしまった。そんな作曲者の願望を反映したのか、この曲は高度な演奏技巧を随所に取り入れており、演奏者にとっては難曲の一つである。
1903年に作曲され、1904年2月、ノヴァチェク独奏・作曲者自身の指揮でによりヘルシンキで初演されたものの、聴衆・評論家からの評価は
「美しい部分が多々あるものの、全体として冗長である」
とされ、あまり芳しいものではなかった。
1905年、ブラームスのヴァイオリン協奏曲を聴いたシベリウスは衝撃を受け、ヴァイオリンの名技性をおさえて構成を緊密化し、さらに凝縮させ、より公共的な響きを追求した作品に作り直され、同年10月ハリール独奏・R.シュトラウス指揮によりベルリンで上演された。現在演奏されるのはこの改訂版によるもので、1903年版は改訂版出版後に、作曲者により演奏を禁止された。しかし1991年になって、遺族から1903年版の演奏の許可が下り、カヴァコス独奏・ヴァンスカ指揮ラハティ交響楽団により録音が行われた。この演奏は改訂版とのカップリングでCD録音され、入手可能である。
第一楽章では、弱音器つきのヴァイオリンの上に乗っかる、たくましいソロの音が印象的。彼女は、楽器をしっかり響かせるタイプの演奏家とみた。シベリウスに求められる叙情性がまるで感じられない演奏ではあるが、その演奏はとても情熱的で、曲の輪郭をくっきりと明確に引き出す、硬く引き締まった音色は素晴らしい。終盤でやっと叙情性が表現されたと思ったら、パッセージが乱れたところがあるのは残念。
第二楽章は「極寒の澄み切った北の空」を見事に表現する木管群の響きに導かれ、表情豊かなヴァイオリン・ソロが登場。とても豊かに歌う、情熱的な演奏。前楽章ではあまり感じなかった叙情性も、この楽章になってやっと感じられるようになった。最弱音から最高音まで、一つ一つ自分の意思を込めた音色で歌う。オーケストラも、そんなソリストを見事に支えている。最終盤の消え入る表現は素敵だなと思った。
第三楽章では、ティンパニ・低弦部・ソリスト三者ともリズムに乗った表現を披露。舞曲風の主題もリズミカルに楽器を鳴らしている。名技性を披露したとはいえ、この日の演奏はどう見てもベスト・フォームとは言いがたく、終演後の本人の表情も今ひとつ。シベリウスの持つ北風の冷たさとは真逆の、イタリア的なからっとした、情熱的な演奏だというのはちょっといいすぎか?

パガニーニの奇想曲 24番の主題によるパガニーニアーナ

パガニーニの代表曲である「パガニーニの主題による狂詩曲」の第24番主題「クワジ・プレスト」を、20世紀を代表するヴァイオリニストであるナタン・ミルシテインが編曲した作品である。主題と11の変奏、終曲で構成され、わずか16小節の主題が、あらゆる技巧のために展開される。
彼女の美質は、メインプログラムである協奏曲よりも、アンコールで演奏された当曲に現れているようだ。音色・表現・技術とも切れがいい演奏だった。彼女はシベリウスみたいな叙情性を求める曲より、情熱的な曲がよく似合っているのではないか?

交響詩「四つの伝説」作品22

今回の演奏会では「交響詩 四つの伝説」と紹介されているが、本来の曲名は「レンミンカイネン組曲」である。フィンランドの民族叙情詩「カレワラ」に基づいた作品で、1890年代を通じて推敲と改作を繰り返し、作曲者が亡くなる3年前の1954年に決定版の楽譜が出版された。全4曲で構成されるが、楽譜出版は各曲別個に行われ、この中の「トゥオネラの白鳥」は単独で演奏されることが多い。全4曲がコンサート会場で演奏される機会は滅多にないそうで、今回のプログラムはある意味で、まことに野心的なものである。

第1曲 レンミンカイネンとサーリの乙女たち

木管群の響きは、娘たちが踊っている表現だろうか?主人公は一人の村娘に夢中になるが、彼女は主人公の誘いにはなかなか応じない。主人公は必死に口説き、娘はそれを受け入れることになっているのだが、私の耳には、いやがる彼女を無理矢理誘い、一線を越えてしまったように聞こえる。だが体の相性がよかったのか、彼女も主人公の気持ちを受け入れる。やがて二人は結婚の約束を交わすが、お互いに条件を出す。1:13:20あたりからの弦楽器の濃厚な表現はすごい。グイグイと弦楽器を中心に押しまくる演奏だが、この間隔はシベリウス・ファンにはたまらないだろう。金管群の咆吼は、オーガニズムに達した女性のそれを思わず想起する。そして、最後の音は愛の営みを終え、女性を優しく抱いて愛を囁く男の姿を暗示しているのだろうか。

第2曲 トゥオネラの白鳥

全4曲の中で最も有名な曲であり、単独でも上演される機会も多い。イングリッシュ・ホルンが白鳥の主題を表現するように、この曲はイングリッシュ・ホルンの負担が大きい。
N響の奏者は、この難題をうまく解決している。叙情的で寂しく、物悲しい音色は、のちの悲劇を予感させる。最後は、悲壮感に満ちたソロ・チェロの演奏で幕を閉じる。

第3曲 トゥオネラのレンミンカイネン

弦楽器の分散和音が、迫り来る避けられない悲劇の到来を告げる。敵はレンミンカイネンが川にやってくるのを待ち構えている。何も知らず、白鳥を捕まえるために川に入るレンミンカイネン、彼の命を奪おうとじっと息を潜める敵。周囲の異変にレンミンカイネンは気がつかず、白鳥を仕留めようとターゲットに近づく。だがそこを待ち構えていた敵に襲われてしまう。必死に攻撃をかわそうとするが、ついに毒蛇に心臓を咬まれ、レンミンカイネンは命を落としてしまう。川に落ちた彼を見て、白鳥はどう思うのだろうか?小刻みな弦楽器の弱音と木管の音色は、レンミンカイネンが天国にやってきたことを表現しているに違いない。1:38:59からの表現は、死神の到来と、彼の遺体が死神によってバラバラにされるところを表現しているのだろう。金管群の響きは、遺体の断裁を表現しているのか?チェロのソロは、この悲しみを十全に表現している。

第4曲 レンミンカイネンの帰郷

レンミンカイネンの母親は、トゥオネラ川の途中で息子が死んだことを聞かされる。母親は鍛冶屋に頼んで大型の熊手を作ってもらい、遺体をかき集めて想像心の膏薬を塗ると、息子は見事によみがえった。レンミンカイネンは老婆の娘を娶ろうとするが、結局故郷に帰ることに。戦いに勝ったわけではないのに、勢いのいい音楽なのはどうしてだろう。それは、愛する妻と母と一緒に帰れるのが嬉しいからか?金管群は勇壮な響きを奏でる。弦楽器の分散和音はドラマティックな響きを表現する。弦楽器の猛烈な加速、木管群の英雄色濃い響き。うーん、これはすごいと思う。

この日の東京は未曾有の大雪で、客席も空席が目立った。「せっかく切符をとったのに…」と、当日の天候を恨んだ人も多かったに違いない。交通機関の乱れにより多くの帰宅難民の発生が懸念されていた。
本当だったら、カーテンコールが繰り返されるところなのだが、指揮者は観衆に向かって言った。
「外はどんどん積もっているようなので、今日はこれまで。ありがとうございました。」
果たして今日の聴衆は、無事に帰宅できたのか気になるところである。

「マノン・レスコー」より間奏曲

コンサートプラスは、NHKスタジオ収録でプッチーニの歌劇「マノン・レスコー」より間奏曲。弦楽器のやりとりののち、ロマン色濃厚な全奏へと流れ込む。しなやかな弦楽器、ドラマティックで悲劇性を讃える金管群が見事だが、こういう演奏こそライブで聴きたい。

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