NHK交響楽団 第1772回定期演奏会

第1772回定期演奏会
演奏会用ワルツ第1番ニ長調 作品47(
ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35
バレエ音楽 眠れる森の美女作品66(抜粋)
プロローグ
・序奏
・広間の行進曲
・パ・ド・シス(グラン・パ・アンサンブル)
第1幕
・ワルツ(村人の大ワルツ、別名「ガーランド・ワルツ」)
・終曲
第2幕第1場
・情景
・間奏曲
第3幕
・終曲と大詰め(グラン・パ・パ・ドゥ・クラシック)
(以上チャイコフスキー)

(ヴァイオリン)
NHK交響楽団
指揮:
2014年1月10日 NHKホール

N響第1772回定期演奏会は、ロシアの指揮者アレクサンドル・ヴェデルニコフを迎えて、オールロシア作品のプログラムを組んだ。
ヴェデルニコフは1964年生まれ、モスクワ音楽院にてニコラーエフに指揮を師事、ロシア・フィルハーモニーやボリショイ歌劇場の指揮者を経て、現在はデンマーク・オーデンセ交響楽団の指揮者を務めている。

演奏会用ワルツ第1番ニ長調 作品47

グラズノフは「ロシア五人組」の一人リムスキー=コルサコフの弟子であり、若くして作曲家・指揮者として成功を収めた。弱冠34歳でペテルブルク音楽院(現:サンクトペテルブルク音楽院)の教授に就任し、後に院長としてロシア帝国における音楽教育界の頂点に君臨した。弟子の一人にショスタコーヴィチがいる。
演奏会用ワルツ第1番は1893年に作曲され、同年に師匠であるリムスキー=コルサコフの指揮で、ペテルブルクの貴族会館で初演された。複合三部形式で構成され、都会的で洗練された響きが特徴である。
この曲は初めて聴いた。「演奏会用」という言葉がタイトルに利用されているが、実際のバレエ音楽でも聴いてみたいと思った作品である。木管の奏でる音色は、どことなく儚くてうつろいやすいもの。ヴェデルニコフは緩急の差を大きくとり、実際のバレエの舞台ではこんな感じで演奏するんですよと言う演奏を聴かせてくれた。華やか旋律美と、ロシア音楽らしい土着性溢れる響きが楽しめる佳品である。

ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35

世界中のヴァイオリニストがこぞって取り上げるほどの人気曲であり、またソリストに超絶技巧を要求する難曲としても有名である。だが初演時の評価が現代とは全く違うものであったことは、一般にはよく知られていない。
彼がこの曲を書こうとしたのは、友人のヴァイオリニストが、ラロの「スペイン交響曲」を手に携えてやってきたのがきっかけである。彼はこの曲を研究し、わずか1ヶ月でヴァイオリン協奏曲を書き上げた。チャイコフスキーは書き上げたばかりのこの曲の楽譜を、当時彼のパトロンだったメック夫人に送ったが認められず、初演を希望していたレオポルド・アウアーは「演奏不能」として、演奏を拒絶した。やむなくソリストをアドルフ・ブロツキーに変更して初演したが、指揮者・オーケストラ楽団員の理解不足からこの演奏は大失敗に終わり、聴衆や評論家はこの豊かな旋律を「悪臭を放つ音楽」と罵倒した。しかしブロツキーはこの非難に負けず、その後のコンサートでこの曲を演奏したことから、この曲を理解する人も増えていった。初演を拒否したアウアーもこの曲を認めて演奏するようになり、彼の弟子もコンサートで演奏するようになったことで認知度が広がり、現在に至る。
初演は1881年12月4日、アドルフ・ブロツキーの独奏、ハンス・リヒター指揮ウィーン・フィルハーモニーの演奏で行われた。ウィーンの聴衆は保守的らしいが、それにしてもこの曲の真価を見抜けたなかったのだろうかと疑問に思う。
ソリストのジェニファー・コーは、1976年生まれの韓国系アメリカ人ヴァイオリニスト。1994年のチャイコフスキー国際コンクール・ヴァイオリン部門で1位なしの2位を獲得、以後世界各地で活発な演奏活動を展開している。今回がN響と初共演である、
彼女の第一楽章の演奏は、序盤では一音一音丁寧に紡がれ、表情も濃いが、時として音程が怪しかったり、緩急の「急」の部分では、音色が汚くなったりするなど全体に不安定。再現部の音は艶やかさが感じられず、終盤はただシャカシャカと言を動かしている印象しかなかった。
だが第二楽章になると艶やかな音色を駆使し、遅めのテンポでじっくり旋律をうたわせる。気のせいか、コーの表情は「色っぽい」を通り越して「エロい」。ベッドの中でも、彼氏相手にそんな表情を相手に見せるのだろうか?といらぬ妄想をかき立ててしまうほどである。
第三楽章における、ヴァイオリン独奏の最初のピチカートは早めだが、2番目に出てくる時は、最初に比べてややゆっくり。だがその音色にはスラブっぽさは微塵もなく、テンポが遅い部分は表情をつけて、たっぷり楽器を鳴らすのに、早い部分は音がつぶれ、楽器の鳴り方も中途半端。最終盤でやっと調子を取り戻したが、最初からこの調子で弾いてくれればと思うと、いささかもったいない。本人も、今日の出来が悪かったと自覚しているようで、その表情は冴えず、観衆の拍手も、どことなくよそよそしいものだった。別の機会に、ベストな演奏を聴いてみたいと思った。

バレエ音楽 眠れる森の美女作品66(抜粋)

皆様ご存じの通り、チャイコフスキーの「三大バレエ音楽」の一つである。
この曲は1888年、サンクトペテルブルク帝室劇場総裁であるイワン・フセヴォロシスキーの「フランスの詩人・シャルル・ペローの同名のおとぎ話の音楽が欲しい」と依頼を受けたのがきっかけである。フセヴォロシスキーはバレエの台本に、ペローの他の作品やフランスの童話の要素を盛り込み、チャイコフスキーの作曲は、その台本に基づいて進められた。初演は1890年1月15日、マリインスキー劇場で、皇帝アレクサンドル3世臨席の下に行われた。だが皇帝は初演の出来に「とてもいい」としか答えず、作曲者は失望したといわれている。ロシア国内では人気曲として認知されたものの、国外のバレエ界で認められるようになったのは1920年代になってからである。原典版をフルで演奏すると3時間かかるため、これまでは2時間の短縮版で上演されることが多かった。作曲者の原作を完全に復元したバージョンで上演されたのは、1999年のマリインスキー・バレエである。
普段オーケストラで演奏される組曲は、ロシアの音楽家アレクサンドル・ジロティがチャイコフスキーに提案の上で編纂されたものだが、今回は指揮者が選んだ8曲が演奏された。
プロローグ
序奏 広間の行進曲 パ・ド・シス(グラン・パ・アンサンブル)
とてもシンフォニックな響きを聞かせてくれる。行進曲の響きは力強く、ロマンティックな味が濃い演奏だが、金管楽器の音程がやや不安定に聞こえた。パ・ド・シスの響きは、この曲が交響曲第5番と同じ年に完成したこともあってか、どことなく同曲と似ている。
第1幕
ワルツ(村人の大ワルツ、別名「ガーランド・ワルツ」) 終曲
この人の指揮でワルツを踊ってみたい!と思わせる見事な演奏。指揮者はインタビューで「指揮者の本領は、コンサートを振ることである」と答えていたが、この人はおそらくバレエ音楽を十八番にしているのだろう。本場ボリショイ歌劇場のオーケストラと同じような響きを、N響から引き出す手腕は見事である。指揮者も目線で、オケから呪文を引き出している。コントラバスを中止とする弦楽器の響きが、リラの精の到着と彼女たちの焦りを見事に表現。クラリネットの響きは、リラの精の魔法を表しているのだろうか?最後のコーダは、オペラティックで見事な表現。ティンパニも力強い。
第2幕第1場
情景 間奏曲
勇壮な金管の響きは王子の狩りの場面、弦楽器のせわしない響きはリラの精を表現しているのか?間奏曲をここで持ってきた。この曲は、ヴァイオリンが大活躍。コンサートマスターの響きは、協奏曲のソリストよりうまいのには笑ってしまった。ヴァイオリンの不協和音も、ちっとも不快に聞こえないのは、コンマスの持っている音楽性の賜かな?
第3幕
終曲と大詰め(グラン・パ・パ・ドゥ・クラシック)
王女が王子のキスで目が覚め、いよいよフィナーレ。婚礼の支度が調った。来客が二人の門出を祝い、会場のあちこちではカップルが踊っている。明治時代の鹿鳴館のダンスも「会議は踊る、されど進まず」と揶揄された19世紀のヨーロッパも、参加者はこんな雰囲気の中で踊っていたのだろうか?サラバンドの響きもリズムも、当時流行ったオリエンタルの影響が色濃くにじむ。だが終わり方が唐突だったこともあり、観衆の盛り上がりは今ひとつ。拍手も、どことなくお義理っぽい。
この曲の良さがうまく伝わらなかったのは、明らかに指揮者の選択ミス。機会があったら、動画でもいいから全曲版を見たい。

コンサート・プラス

眠れる森の美女より

振り付け:マリウス・プティパ(1818~1910)
オーロラ姫:スヴェトラーナ・ザハロワ
デジレ王子:デーヴィッド・ホールバーグ
2011年11月 モスクワ ボリショイ劇場

コンサート・プラスのコーナーは、2011年のボリショイ劇場リニューアル上演の時の映像。演目もこれに同じ。
プリマの体がとても柔らかい。舞台で表現されているのは、フランスのロココ様式か、それとも栄光溢れるエカテリーナ2世治世下の帝政ロシア時代か?
バレリーナからは、演技すること、踊ること、表現することに満ちあふれている。全員がステップを踏む様子は壮観だ。

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