NHK交響楽団第1770回定期公演

 第1770回定期公演
グロリア(プーランク)
1.Gloria in excelsis Deo(天のいと高きところには神に栄光)
2.Laudamus te(われら主を誉め)
3.Domine Deus(神なる主、天の王)
4.Domine Fili unigenite(主なる御ひとり子)
5.Domine Deus, Agnus Dei(神なる主、神の子羊)
6.Qui sedes ad dextcram Patris(父の右に座したもう主よ)

テ・デウム 作品22(
第1曲 賛歌:テ・デウム(神なる御身を)(Te Deum)
第2曲 賛歌:ティビ・オムネス(すべては御身に向かい)(Tibi omnes)
第3曲 祈り:ディナーレ(成したまえ)(Dignare)
第4曲 賛歌:クリステ・レクス・グローリエ(栄光の王、キリストよ)(Christe, Rex gloriae)
第5曲 祈り:テ・エルゴ・クェスムス(それ故に願いまつる)(Te ergo quaesumus)
第6曲 賛歌と祈り:われ信ず、審判に(Judex crederis)

(ソプラノ:プーランク)
(テノール:ベルリオーズ)
新国立劇場合唱団


NHK交響楽団
シャルル・(指揮)
2013年12月6日 NHKホール

コンサート・プラス
演奏会用小品第一番作品113(メンデルスゾーン)
(ヴィドール)
2本のクラリネットのためのソナタ(プーランク)


(クラリネット)
2011年5月26日 武蔵野市民文化会館小ホール

N響の1770回定期公演は、シャルル・デュトワを指揮者に迎えた。
今回のプログラムは、2曲とも宗教系の作品を選んだが、これは演奏会の時季が、クリスマスに近かったからだろうか。
プーランクはフランス近代を代表する作曲家で「フランス6人組」の一人である。彼は5歳頃からピアノを母親から教わるようになり、15歳から、スペイン出身の大ピアニストであるリカルド・ピニェスに師事する。師匠がデュカスラベルら当時のフランス音楽界の有名人と顔見知りだったことから、弟子のプーランクも、彼らと交流するようになる。同時期、フランスを代表する詩人であるジャン・コクトー主宰のサロンに顔を出すようになり、彼の芸術感に大きな影響をあたえることになる。彼はパリ音楽院への進学を希望していたが、父親の反対のためにそれは叶わなかった。3年間兵役に就いた後、シャルル・ケクランのもとで3年間作曲を学ぶ。1924年、当時のバレエ界で最先端の芸術を実現していたセルゲイ・ディアギレフの委嘱作「牝鹿」を発表して大成功を収め、その後も声楽曲・室内楽曲を中心に多数の傑作を残している。
今回取り上げられた「グロリア」は、プーランク最晩年の作品である。初演は1961年1月20日、アディーレ・アディソンのソプラノ独唱、シャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団の演奏で行われた。フランス初演はそれから約1ヶ月後の2月14日、ロザンナ・カルテルのソプラノ独唱、ジョルジュ・プレートル指揮フランス国立放送管弦楽団によるものである。タイトルの「グロリア」は「神に栄光あれ!」という意味がこめられている。
本作は、アントニオ・ヴィヴァルディの「グローリア」を手本にしており、3巻編成のオーケストラとソプラノ独唱(第2曲・第5曲・第6曲)からなる全録楽章の構成になっている。デュトワは1994年、フランソワーズ・ポレのソプラノ独唱、フランス国立管弦楽団と同曲を録音ししている(管理人は未聴)から、当日の観衆や放送を聴いていた人は、この演奏と比較していたかも知れない。

グロリア(プーランク)

第1曲は、作曲者自身熱心なカトリック教徒だったこともあり、全曲はオルガン的な響きで覆われている。第2曲は、第1曲とは対照的に明るい雰囲気。第3曲のソプラノ歌唱は、その性質から、チャイコフスキーのオペラ「スペードの女王」に出てくるヒロインを想像してしまった。合唱とソプラノの掛け合いも聞き所の一つで、第1曲に比べたら、だいぶ宗教曲らしい雰囲気になっている。
第4曲はキリストを讃える歌で、全曲中最も短いが、明るくてしゃれた雰囲気が漂い、いかにもプーランクらしい旋律美に満ちている。第5曲は木管の響きがいかにもフランス的で、エスプリが効いているのが印象的。怪しい雰囲気が漂っていて、前の曲と曲調が正反対。後半にはミステリー映画ばりの、おどろおどろしい旋律が出てくる。終盤の音階は、いかにも前衛曲風だが、メロディーはすっきりとしていて聴きやすい。全6曲の中で、一番演奏時間が長い曲である。第6曲は、「ミサ曲」というより「カンタータ」のノリに近い。有名曲「カルミナ・ブラーナ」の世界が好きだったら、すんなりとなじめるだろう。バッハが20世紀に生まれていたら、こんな曲を書いただろうな。後半に、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」に似た旋律が出てきてびっくりしたりする。
この曲のソリストであるエリン・ウォールは2001年にデビューし、メトロポリタン歌劇場、スカラ座、ウィーン国立歌劇場で活躍するソプラノで、広範囲のレパートリーを誇る。ウォールの歌唱は、透明な音色で、いかにも宗教曲の無垢な世界にお似合い。最後のオケの響きは、神を称える感じになり、消えるように曲を終える。

テ・デウム 作品22(ベルリオーズ)

後半の曲は、ベルリオーズの声楽曲「テ・デウム」。ベルリオーズの宗教曲では「レクイエム」と並んで重要な曲とされている。
当曲の構想は1830年代にまでさかのぼる。1849年8月に完成の目を見たが、作曲者はその後も2回改訂(1852年、1855年)している。初演は1855年4月30日、作曲者自身の指揮で行われた。同年11月に楽譜が出版され、イギリスのアルバート公に献呈された。
オーケストラ・合唱に大規模な人数を要するため、なかなかコンサートで取り上げられない曲の一つである。オーケストラは弦楽器だけで100人必要で、管楽器は4巻編成が基本。そのほかにトロンボーンが6本登場し、ドラムやシンバルも4つ出てくる。ハープに至っては12台が部隊に設置されるという、空前絶後の規模。合唱も指導合唱だけで600人登場し、大人の合唱団も最低240人が舞台に上がる、この曲を生で聴く人は、その迫力に圧倒されるだろう。全7曲で構成されるが、第7曲の行進曲は実際に演奏されないことも多く、当公演でも演奏されなかった。
第1曲 神なる御身 賛歌
オーケストラとオルガン、パイプオルガンの交唱で始まり、すぐに合唱が登場。ベルリオーズはフランス人だが、この曲からはフランスらしさはみじんも感じられない。いかにもカトリック教会で流れる宗教曲といった風情である。
第2曲 すべての天使 天と力あるもの 賛歌
ケルビムとセラフィムが神を称えると歌う。「長い長いクレッシェンドの後、徐々に盛り上がってフォルテになり、オルガン演奏で終わる」を繰り返す。この演奏では合唱の力が強く、オケは弱音でなっているので、どんな旋律だかわかりにくいところがあるという人もいるだろう。歌詞の内容は、当然のことながら神と神父をひたすら褒め称えるというもの。最後は曲調が変わり、静かに終わる。
第3曲 守りたまえ 祈り
オルガン独奏で始まる。退屈なようだが、聞けば聞くほどいい曲なのだろうか?終盤に出てくる旋律は「幻想交響曲」みたいだ。
第4曲 栄光の王たるキリストよ 賛歌
オラトリオの雰囲気といったほうが近い。合唱の迫力も、この曲が一番強かったように感じた。のどが温まってきて、エンジンがかかってきたのだろう。
第5曲 されば我らは願う 祈り
哀愁漂うメロディで始まる。弦楽器のしなやかなユニゾンの後テノールが登場。このテノールの歌唱はオペラっぽく聞こえるが、神に対する懺悔と開墾の気持ちがひしひしと伝わってくる。澄んだ響きの合唱も印象的。神への敬虔な祈りが伝わってくる、いい演奏だと思う。
第6曲 審判者として 賛歌と祈り
オルガンとパイプオルガンが、審判の時が近いことを告げる。神よ、私の命をお救いください。そう歌っているようである。男子合唱が、児童合唱が、そしてオーケストラが、審判を下すように神に迫っている。打楽器の響きは「幻想交響曲」の「断頭台の行進」を思わせる。そしてファンファーレ。ここからの響きは、もはや「宗教曲」ではなく、合唱付きの交響曲だと思った方がいい。金管群の力強い響き。勇ましい響き。最後はパイプオルガンが加わる。

コンサート・プラスで紹介されたのは、クラリネット2本の作品という、ちょっと変わったプログラムである。メンデルスゾーンヴィドールの作品の原曲はピアノが登場するが、このステージでは2人のクラリネット奏者のために編曲されている。
マイケル・コリンズは、1962年生まれのイギリスのクラリネット奏者。10代の頃から国際的なキャリアを重ね、室内楽・オーケストラとの饗宴経験も豊富なアーティストである。
橋本杏奈英国王立音楽院で研鑽を積み、コルトレイク国際クラリネットコンクール(ベルギー)第1位、カルリーノ国際クラリネットコンクール(イタリア)最高位を獲得するなど、コンクール受賞経験も豊富。15歳でイギリス室内管弦楽団(ECO)とのコンチェルト・デビューを果たし、16歳でドハティーの新作コンチェルト「ブルックリン・ブリッジ」を初演するなど、世界各地で活躍している若手奏者。今回共演しているマイケル・コリンズの弟子でもある。

演奏会用小品第一番作品113(メンデルスゾーン)

この曲は1832年末に書かれ、翌年早々にベルリンで初演された。作品番号が100番台なのは、楽譜が出版されたのが作曲者の死後だったからである。もともとはクラリネット・バセットホルン・ピアノという編成のために書かれたが、管弦楽版も存在する。2人のクラリネット奏者の掛け合いが聞き所。第一楽章は愉悦感が溢れ、第二楽章は曲調が一転し、どことなくもの悲しいメロディーが登場。第三楽章は、全三楽章の中で一番テンポが速い。活発で技巧的なロンド楽章となっている。かなりの難技巧が要求されるが、二人とも楽々とこれをクリアしている。

クラリネットとピアノのための序奏とロンド 作品72(ヴィドール)

ヴィドールはハンガリーの血をひく、フランスの作曲家である。この曲は1899年に作曲された。それ以外のことは、残念ながらよくわからない(私の検索の仕方にも問題があるのかも知れない)。この曲はクラリネットの技巧と魅力がちりばめられ、パリ音楽院の試験課題曲になった。もともとはクラリネットとピアノのための作品だが、ここでは二人のクラリネットが演奏している。華やかさとわびしさ、そしてわずかに垣間見える愉悦感を兼ね備えた、隠れた名品かもしれない。終盤はテンポ変化が激しく、2本のクラリネットのパッセージは聞いていてすごい。

2本のクラリネットのためのソナタ(プーランク)

プーランクは弦楽曲よりも、管楽器の音色を好んだ作曲家として知られている。特に室内楽の分野に残された作品は、管楽器のための作品が多く、これは他の作曲家には見られない。この作品は、プーランクがまだ18歳である1917年に書かれ、1945年に改訂された。ケクランに作曲を学ぶ前に書かれた作品だが、節回しは簡潔で明確であり、フランスのエスプリに満ちたものになっている。三つの短い楽章で構成されている。
第一楽章 2本のクラリネットかが奏でる不協和音で開始される。似たような旋律が何度も繰り返され、昼間部は不協和音の塊という趣。
第二楽章 内省的な旋律を聴かせてくれる楽章。一人が旋律を、もう一人がメロディーを奏でる。
第三楽章 勢いのあるアルペジオと軽妙な旋律が光る小ロンド形式の楽章。クラリネットの多彩なテクニックと音色が楽しめる。緩急の差が激しい曲。最後の数音は「音を外したのでは?」と思われる感じで終わるのがユニーク。

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