NHK交響楽団第1769回定期公演

NHK交響楽団 第1769回定期公演 プログラム

バレエ音楽「カルタ遊び」(
ピアノ協奏曲第1番変ホ長調S.124/R.455(
交響曲第15番イ長調 作品141(
スティーヴン・(ピアノ)
NHK交響楽団
シャルル・(指揮)
2013年11月30日 NHKホール

コンサート・プラス プログラム

亡き王女のためのパヴァーヌ(ラヴェル)
NHK交響楽団
シャルル・デュトワ(指揮)
1991年4月18日 NHKホール

概要

NHK交響楽団は第1769回定期公演に、シャルル・デュトワを指揮台に迎えた。
デュトワは1996年から2003年まで、N響の常任指揮者・音楽監督を務め、このオーケストラに色彩感に富んだ、柔軟な音色を持たせた。音楽監督退任後も名誉音楽監督として、ほぼ毎シーズン、N響の定期演奏会でタクトを振っている。今回は、ストラヴィンスキーリスト・ショスタコーヴィチと、東欧系の作品でプログラムを組んだ。

バレエ音楽「カルタ遊び」(ストラヴィンスキー)

この作品は、アメリカン・バレエ団の総支配人らの依頼で作曲された作品で、1937年4月27日、作曲者自身の指揮及びジョージ・バランシン振付によるアメリカン・バレエ団により、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場で初演された。作曲者の「新古典主義時代」に属する作品であり、全3場で成り立っていることから「3回勝負のバレエ」というサブタイトルがついている。タイトルにあるように、この曲はポーカーの様子を描いたものである。
この曲の存在は全く知らず、この演奏で初めて聴いた。第1カードの序奏は、カードを切る様子を描いているのだそうだ。パ・ダクシオンではフルートの旋律に乗って始まり、ジョーカーが出てきてびっくりするプレーヤーの様子が描かれている。後半の部分は、R・シュトラウスのオペラのような曲調になり、終結部は木管のささやきで終わる。
第2カードは、クラリネットでカードをシャッフルする様子が描かれる。プレーヤーの感情は、弦楽器と打楽器で表現される。思わぬ展開になり、苦虫をかみつぶしたようなプレーヤーの表情が目に浮かぶ。ホルンとクラリネットに導かれてクィーンが登場。「いい手が出た」とほくそ笑むプレーヤー、驚く観衆。やがて勝負は膠着状態になり、先の見えない展開が続く。果たしていったいどうなるのか?勝負はついた。いや、まだまだこれからだというプレーヤー二人のやりとりを経て、決着の時を迎える。負けたほうは未練がましく、ぶつぶつ言っている。それがなんともおかしい。
そして勝負の第3カード。優勢なプレーヤーの態度、苦境に陥ったプレーヤーの表情。デュトワは明快でくっきりしたリズムと透明な音色でこれを表現していく。スペードとハートの最後の戦い。勝者はどちらだろう?手に汗を握る勝負の行方は?さあラスト一勝負!おそるおそる、お互いの手の内を探っていく二人のプレーヤー。弦楽器と金管楽器のやりとりが、勝負が決するときが近いことを告げる。そして、勝者はどちら?ハートだ。やがてディーラーが現れ、一気に加速して曲は終わる。

ピアノ協奏曲第1番変ホ長調S.124/R.455(リスト)

リストが完成させた、2曲のピアノ協奏曲の1つである。なぜこのような書き方をしたのかというと、彼は20代前半にピアノ協奏曲を2つ書いているが、それらの楽譜が紛失・行方不明になっているからである。本作は1830年代に着想されたが、上演するまでに5回も改訂した。初演は1855年2月17日、ヴァイマル宮廷の演奏会にて作曲者自身のピアノ、ベルリオーズ指揮によるもので、翌年にはさらに推敲の筆が加えられた。この作品は第三楽章を中心に、トライアングルが大活躍する珍しい構成になっているが、その前衛性は批評家から「トライアングル協奏曲」と揶揄されたが、現代ではコンサート・レパートリーに欠かせない作品である。全4楽章で構成されるが、全曲休まずに演奏される。
ソリストのスティーブン・ハフは、1961年生まれのイギリス・オーストラリア二重国籍保持者のピアニスト。ジュリアード音楽院に学び、1983年ニューヨーク・ノームバーグ国際ピアノコンクールの優勝者。リサイタルや室内楽などで活発な演奏活動を展開するかたわら、ロンドン王立音楽院などで教鞭を執っている。
オーケストラで提示される第一主題に続いて登場する、ハフが演奏するピアノのカデンツァは、堂々としてリズム感がくっきりしている。これはデュトワの音楽性に沿ったものだろう。第一楽章では、オルガン的な表現も見られる重厚な響きが垣間見える。ピアノとクラリネット、少人数とのヴァイオリンのやりとりは、まるで室内楽的な書法を感じさせる。透明な音色と名技性を兼ね備えたハフのピアノはすばらしい。
第2楽章は2部構成。弦楽器は弱音器をつけて演奏するのだが、この演奏はそうなっていない。いや、つけているのだが、画面に映らなかっただけか?カデンツァの部分は、協奏曲のそれというより、ピアノの小品といった風情。オーケストラとの協奏部分になると、作曲者の不安な心理状態が露わになる。やがて不安の霧は晴れたのか、クラリネットとの協奏部分では明るい響きが見える。
そして第3楽章では、トライアングルが大活躍。ピアノとトライアングル、オケの掛け合いが聞き所の一つ。ピアノはだんだん情熱的になり、やがて静かな調子を取り戻す。オケで提示された第1楽章第1主題がピアノで復元され、徐々にテンポが盛り上がっていく。ピアニストに、高度な名技性を要求する部分を、ハフは難なく弾ききったところで第4楽章へ。
第4楽章で、一気にピアノが弾ける。「ラ・カンパネラ」で使われるフレーズが出てくる。そして一気に怒濤のフィナーレ。丸では譜のピアノは曲芸師のようで、聴衆を圧倒する。作曲者があの世から舞い戻ったかのような響きとはこのことだろう。

交響曲第15番イ長調 作品141(ショスタコーヴィチ)

ショスタコーヴィチが最後に作曲した交響曲で、交響曲第10番(1953年作曲・初演)以来の、声楽を含まない伝統的形式に則った交響曲である。1971年に作曲され、1972年1月8日、息子・マクシム・ショスタコーヴィチ指揮モスクワ放送交響楽団の演奏で初演された。
この時期のショスタコーヴィチは体調不良に苦しめられ、この作品も病床で作曲された。この時期の作風は、哲学風で独特な透明感に支配され、自作を含む過去の作品からの引用も顕著になる。本作も「ウィリアム・テル」(ロッシーニ)やハイドン、ワーグナーなどの作品の旋律が引用されている反面、各楽器のソロが目立つ室内楽的なオーケストレーション、ショスタコーヴィチ流の十二音技法など、作曲者の技巧も十分に楽しめる作品になっている。
第一楽章では、ロッシーニの「ウィリアム・テル序曲」の旋律が用いられているのが特徴だ。これは幼少期の彼が、最初に好きになった曲だそうだ。全体の旋律は、ショスタコーヴィチが好んで用いた旋律の影響が色濃いが、これは自分の青春時代を振り返ったからだといわれている。コンマスと他楽器の掛け合いも聞き所のひとつである。
第二楽章は金管の荘厳な雰囲気が漂うコラールで始まり、哀愁感たっぷりのソロ・チェロが12音風のモノローグを奏でる。ソロ部分は、チェロ協奏曲第2番のカデンツァ部分に似たような響きを持つ。再び金管群のコラールからチェロ・ソロ。さらにヴァイオリンもソロで登場する。金管群の12音技法は不気味さが漂ってくる。コントラバスのピチカートは最弱音の響きで、悲壮感が漂う。トロンボーン、チューバの響きは哀愁感たっぷり。テンポをやや遅めに取っている分だけなおさら不気味さが目立つ。この演奏を聴いている時は、夕方誰もいない道を、とぼとぼ一人で歩いて自宅に帰る光景を想像していたのだが、ひょっとしたらこの部分は、己の芸術が政治に翻弄されたことを回顧しているのではと思うようになった。全楽章を通じてオーケストラのアタッカは控えられ、ソロ楽器と弱音のオーケストラのやりとりが目立つなど、室内楽的な書法が目立つ。葬送行進曲の部分になり、ようやくアタッカになる。金管楽器の強奏に導かれたこの上なく気味の悪い響きが続々と現れ、静かに終わる。
ワンテンポおいて第3楽章。クラリネットが第1主題を奏で、すぐにトリル主題のソロ・ヴァイオリンが登場。弦楽器の静寂な響きにのって、ソロ・ヴァイオリンがリズムを奏で、打楽器の合唱で演奏が締めくくられる。
第4楽章冒頭に出てくる旋律は、ワーグナーのオペラ「ニーベルンゲンの指輪」に登場する「運命の動機」。弦楽器が奏でるしなやかな響きに導かれて登場するのは、グリンカ作曲の歌曲「疑惑」の引用。1時間35分あたりで、オーケストラは旋律を思い切り歌う。ホルンソロ、それに対抗するかのような弦楽器のざわめき。長大なパッサカリア(変奏曲の一種)で用いられる主題は、交響曲第7番の第一主題「戦争の主題」であり、ここから六つの変奏曲が続く。弦楽器の書法は精緻を極め、演奏者はもちろんのこと、聴衆にも極限の集中力を求められる。その響きは、金管群のアタッカによって破られ、チェレスタのパッセージから静謐なコーダが始まる。そしてハイドン最後の交響曲第108番「ロンドン」の冒頭が引用され、静かに幕を下ろす。
演奏後、割れんばかりの拍手。ソリストたちも、指揮者に促されて続々と席を立つ。その顔には、この難曲を弾ききった充実感が溢れていた。それだけ、演奏するのが難しいのだろう。アンサンブルを破綻させることなく弾ききった各奏者に拍手を送りたい。

亡き王女のためのパヴァーヌ(ラヴェル)

この曲はもともとピアノ曲で、1902年4月、スペインのピアニストであるリカルド・ビニェスによって初演されたが、周囲の音楽からはあまり評価されず、自身もあまり高い評価をしていなかったという。オーケストラ版は1910年に編曲され、翌年2月にヘンリー・ウッド指揮、ジェントルメンズ・コンサーツ・イン・マンチェスターの演奏で初演された。
50代半ばのデュトワは、今よりもうんと若々しい。時代はバブル景気の余韻がまだ残っており、コンサート・マスターも徳永二男氏がいた時代である(彼はこの3年後に退団し、その兄であるチェロ奏者・徳永謙一郎氏は弟・二男の退団から4年後に他界した)。フランス系カナダ人の彼にとって、ラヴェルの作品はお手の物であり、光彩陸離たるラヴェルの世界が忠実に表現されている。

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